第27話 黒鎧のルーク
間に合った。いや、間に合ってるのか? 僕は広間を見渡し、状況を把握する。
敵のアンデッドモンスターは、玉座の男の背後でうめき声を上げながら、立ち並んでいる。おそらくセシルの前にいる男がリーダーで、動かないように命令しているんだろう。
そして、この部屋にいる人間は
「お前は何者だ? こいつらの仲間か?」
「仲間などではない。俺は
『ぷぷぷぷ……ルカさん、その一人称は無理がありますって……』
うるさいぞリーシャ。僕は他の冒険者たちに正体がバレないように、一人称を俺に変えて、リーダー格の男の問いに答えた。慣れない口調だからキャラづくりが大変だ。
*
街に出る前、僕たちはギルド職員のお姉さんに絡まれていたわけだけど……作戦会議でメイカがこう言ったのだ。
「ルカさん、
「あ、掲示板でちょっと見た気がする。でも詳細は知らないや」
「最近現れたS級冒険者パーティの名前なんですが、まだパーティメンバーが姿を見せていないらしいんですにゃ。そこでですね……」
メイカは自信満々な表情で。
「ルカさんが
「ええっ、そんなことしてバレたら大変なことになるよ!」
「大丈夫ですって! なにやらそこのリーダーは黒い格好をしていると噂で聞きますから、レティさんに黒い鎧になってもらって、顔を隠せばいいんですにゃよ!」
『それなら出来そうね』
確かになりすますことはできるかもしれないけど……バレたら怒られそうだなあ。最悪、冒険者を辞めさせられるんじゃないか。でも緊急事態だしなあ……うーん。
*
というわけで、僕は
「今、この女をグールにするところなんだが……邪魔するならばお前の相手もしてやろうか?」
「ああ、それでは
リーシャを手に持ち、一気に
しかし、僕たちの方が力は上だ。男は杖で衝撃を殺しきることができず、地面を思いきり蹴って横に回避することで威力を殺した。
この瞬間、男はセシルから離れている。僕は急いでセシルを抱え、
「この少女を連れて逃げろ。上のモンスターは全て俺が倒しておいた。上に行けば他のパーティと合流できるはずだ」
「は、はい! わかりました!」
かつてのパーティメンバーたちは、さんざん馬鹿にしてきた僕に
リーシャによる攻撃を受け止め、
「貴様……何者だ? 余に力で押し勝つとは……」
手のひらを開閉し、男は再びこちらに向き直る。
「我が名はエルドレイン。かつて王だった者だ」
「俺の名は………………ルークだ」
『プププッ……なんですかその間は!』
『リーシャ、笑っちゃ駄目』
『せっかくのカッコいいシーンが台無しじゃ。アホじゃの~』
神器ーズうるさい! 僕だって頑張ってキャラづくりしてるんだから、もう少しお静かに!
「ルークか。覚えておこう、その名前を。余に一瞬でも不覚を取ったのは貴様が初めてだ」
「――いや。覚える必要はない。お前はここで死ぬ運命だ、過去の王よ」
『それはちょっとカッコいい。興味あるわ』
僕が即興で考えた軽口を聞いて、エルドレインはクククと笑い始めた。
「面白い。貴様ならば余を楽しませてくれそうだ」
「エルドレイン。なぜアンデッドを人の世界に放つ?」
「大した理由ではない。この世界の王となる前に、我が宝物を少し試してみたくなってな」
そう言って、エルドレインは手に持った杖を
「これは
あの杖がアンデッドを召喚していたのか、じゃあ街が大変なことになった原因は、やっぱりアイツなんだ!
「エルドレイン。お前が人類の生活を脅かすならば、俺がそれを止める」
「威勢のいいことだ。だが……今の状況でそんなことが言えるのか?」
エルドレインの後ろには、たくさんのアンデッドモンスター。まさに
「こやつらはさっきまで人間だったわけだが、今ではすっかりグールとなっているぞ。そうだ、まずはこの二体と戦ってもらおう」
エルドレインが指示を出すと、二体のグールが前へ出てきた。気になるのは、さっきまで人間だったという発言だ。
そう言えば、さっき見た感じ、パーティメンバーの中にルシウスとヴェルディの二人がいなかったけど……まさか、この二体は、その二人なのか!?
僕は慌てて<サンシャイン>を発動した。
▼▼▼
ルシウス・バルター(グール状態) レベル33
スキル
<速度上昇 特大>
自身の素早さを2倍にする。
ヴェルディ・アーマード(グール状態) レベル34
スキル
<攻撃力上昇 特大>
自身の攻撃力を2倍にする。
▼▼▼
やっぱり……このグールたちはルシウスとヴェルディだ。
決していい思い出がある二人ではない。特にルシウスは僕のことを殺そうとした張本人で、これまでも僕のことをさんざん嫌ってきた。
でも……だからと言って殺すのは抵抗がある。こんな姿になってしまっても、同じ人間だからだ。
「ルシウス! ヴェルディ! 聞こえないのか!?」
「グオオオオオオオ……」
「ウゴオオオオオオオオオ!!」
二人に声をかけるが、会話をできそうにない。グールとなった二人は僕に襲い掛かってくる。長い爪を振り回し、僕のことを切り裂こうとしている。
「どうした!? 人間同士で情が移ったか!?」
エルドレインに言われ、僕は鎧の内側で下唇を噛んだ。
『ルカさん、攻撃しないと!』
わかっている。でも割り切れないんだ!
攻撃を避けるのは容易い。二人とも、僕よりかなりレベルが低いからだ。――でも、僕にはどうしても反撃ができない!
「ウオオオオオオオオオ!!」
心なしか、二体のグールの声が二人の泣き声に聞こえてくる。自分の感情をどう表していいのかわからない、
『ルカさん!』
その時、リーシャが声を上げた。
『グールになってしまった人間は、もう元には戻りません。そして、あの叫び声は彼らが苦しんでいる声なんです! ルカさんが彼らを倒さないと、二人だけじゃなく、これからもっとたくさんの人が苦しむことになるんですよ!?』
僕が二人を倒さず、エルドレインを見過ごせば、もっとたくさんの人がグール化して苦しむかもしれない……それは嫌だ。
「……すまない、ルシウス、ヴェルディ」
僕は剣を横一閃し、二人の胴体を切り裂く。一瞬で真っ二つになった二人の裂け目は浄化され、じわじわと崩れて灰になった。
「……絶対、この一瞬を忘れない」
僕は剣の切っ先をエルドレインに向けた。
「俺はお前を許さないぞ、エルドレイン!!」
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