第20話 食事会にて

「ルカ。これはなに?」


「それはオムライスだよ。美味しいから食べてごらん」


 食卓しょくたくを挟んで向こう側のレティが僕に聞く。彼女はスプーンを使い、口の中にオムライスを運び、ぱくり。


「……美味しい」


「でしょ?」


「卵の甘さとライスのしょっぱさがいいアクセントになっている……興味あるわ」


 レティはそう言ってオムライスをむしゃむしゃ食べ始めた。


 時刻は19時くらい。日はとっくに落ちている。僕、リーシャ、レティ、メイカの四人は食堂の机を囲み、食事をしていた。


「今日はメイカの鍛冶師としての初仕事記念日だからね、みんなでじゃんじゃん食べよう!」


「ルカさん、ありがとうございますにゃ! こんな美味しい料理をルカさんと一緒に食べられて、メイカは幸せですにゃ!」


 本日の主役のメイカもすごく楽しそうだ。ツナがたっぷり入ったパスタを食べて、にっこり。


「それにしてもすごいね、メイカ。初めての仕事でリーシャとレティをピカピカに直しちゃうなんて」


「なかなか大変な作業でしたにゃ。でもスキルの力とパパのサポートがあって何とかなりましたにゃ」


 <ヘファイストス>だったか。メイカのスキルにかかれば、神器の修理もお手の物って感じだね。


「ルカさんの専属鍛冶師になるんですから、この程度じゃまだまだですにゃ! ルカさんが世界一の冒険者なら、メイカは世界一の鍛冶師になりますにゃ!」


 それは結構なことだけど、世界一の冒険者になりたいなんて言った覚えないんだけどなあ。


 ……いや、正確には言ったことはあるのか。子供のころ、幼馴染のセシルにだ。


 彼女は僕の夢を応援してくれて、今では彼女の方が世界一の冒険者に近づいてしまった。『世界一の冒険者にふさわしい冒険者に、私はなる!』なんてセシルはよく言っていたっけ。


 彼女はその夢を忘れなかったけど、僕は少しずつ夢を語ることなくしていって……僕とセシルの二人の距離は開いていった。


 でも今、神器のリーシャとレティに出会って、僕は強くなった。新しくメイカも仲間に加わって、今なら世界一の冒険者だって目指せるかもしれない。


 ――今の僕は、世界一の冒険者になりたいんだろうか?


「ルカさん? どうかしたにゃ?」


「あ、いや。なんでもないよ。メイカも頑張ってるなら、僕も頑張らなくちゃと思っただけだよ」


「ルカさんは十分すごいですにゃ。むしろ頑張らなくちゃいけないのはメイカの方だにゃ」


 手羽先てばさきをガブリと食べ、メイカは僕のことを褒めてくれる。


「まあ、ルカさんにはこれからも強くなってもらう予定ですけどね! なんたって、私たちの所有者なんですから!」


 リーシャはシチューをペロリと平らげ、満足そうに言う。


「お代わりお願いしまーす!」


「リーシャは本当によく食べるね」


「当ったり前じゃないですかあ! 昨日はルカさんに遠慮してちょっとしか食べなかったので、今日はいっぱい食べますよ~!」


 そう言って、皿に山盛り乗せられたフライドポテトを目にも止まらない速度でむしゃむしゃ平らげ。


「お代わりお願いしまーす!」


「ちょ、リーシャ!? ちょっとは自重してね!?」


「ちょっとくらい大丈夫ですって~! むしゃむしゃむしゃむしゃ!!」


 置いて行こうかな、こいつ。お会計はリーシャ持ちで。


「そんなことよりルカさん。私言おうと思ってたことがあるんです」


 食事の手は止めず、リーシャが話を切り出す。


「ルカさんと出会ったダンジョン、あそこにもう一体神器がいる気がするんです」


 常闇の洞窟のことか。あそこに神器が……?


「最初に出会った時は脱出できるかどうかわからないレベルだったので言いませんでしたが……今日レティを見つけた時とそっくりの反応があったんです」


 実際、今日はレティを見つけているわけだし、おそらくそれは神器なんだろう。となると、さらに深層に神器がいるってことなのかな……?


「レティはどう思う?」


「興味がある話ね。リーシャが近づいてきたとき、私も仲間が近くにいることを感じたから、神器同士で惹かれあうのは事実だと思うわ」


 レティもそう思うなら、行ってみる価値はある。明日はあそこにもう一度潜ってみることにしよう。


「よくわかりませんが、明日もダンジョンに潜るんですにゃ?」


「うん。そうしようかなと思う」


 リーシャもレティも、神器の仲間がいるなら見つけ出したいだろう。彼女たちの記憶は断片的だんぺんてきで、全てを知るには足りなすぎる。何か知っている仲間を見つけたいところだ。


「でしたら、これを受け取って欲しいですにゃ!」


 メイカは懐から買い物袋くらいの大きさの巾着袋を取り出した。


「これは?」


「ストックバッグですにゃ。どんな大きさの物でも20個まで収納できるから、大きいものを運ぶのに役立ちますにゃ」


 どんな大きさでも!? それはなかなか便利アイテムだな。


「確かに貰ったら嬉しいし便利だけど……本当にいいの?」


「もちろんですにゃ。これまでは荷物持ちの時に使っていた、メイカのお古ですにゃ! ルカさんの冒険が楽ちんになったらメイカは嬉しいですにゃ!」


 なるほど、僕もこれがあったら荷物持ちが楽だったな……メイカの快諾かいだくを受け、僕はストックバッグを懐に入れた。


「むしゃむしゃむしゃむしゃ!! ルカさん! このピザもなかなか絶品ですよ!!」


「みんな、リーシャを置いて帰ろうか」


 リーシャを除いた僕たち三人は立ちあがり、店から出ようとする。


「ちょ、ルカさん!? シャレになりませんって! 私だけ置いていかれたら食い逃げするしかなくなっちゃいますから! ごめんなさいやりすぎました! これからは腹八分目にしますから! だから置いていかないで!」


 リーシャは泣きそうな顔になりながら僕の袖を必死につかむ。本当に面白いな、リーシャは。

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