第18話 頑張りますにゃ

 僕たちはメイカの実家の工房こうぼうに連れていってもらった。『マイオニア製作所』と書かれた看板の建てられた建物に入っていく。


「パパー! ただいまにゃ!」


「メイカ。後ろにいるのはお友達か?」


 メイカが工房を覗くと、中にはタンクトップを着たおじさんが立っていた。筋骨隆々きんこつりゅうりゅうで、白いタオルで汗を拭いている。猫耳おじさん……。


 僕にとっても、メイカにとってもメリットがあること。それは彼女にパーティの『整備士』になってもらうことだ。


 リーシャもレティも人間の姿だから忘れそうになるけど、見た目がボロボロ。どこかのタイミングできちんと整備しておきたいと思っていたから、メイカにやってもらえたら嬉しい。


 この方法なら僕たちは装備品の整備をしてもらえて嬉しいし、メイカは家業である鍛冶屋の仕事を引き継ぎ、自分の才能を磨くことができる。まさにウィンウィンな恩返しじゃないだろうか。


 メイカは父親にこれまでの経緯を話した。僕がトロールを倒したこと、メイカが冒険者を辞めたこと。そして、彼女が僕のパーティの整備士になるということ。



「……なるほどなあ」


 メイカが説明を終えると、彼の父親は何度かうなずいて僕の方へやってきた。


「あんたがルカさんってことでいいんだよな?」


「はい。ルカ・ルミエールです」


「俺はスミス・マイオニアってんだ。娘が助けられちまったみたいだな。礼を言うぜ」


 スミスさんは丁寧ていねいにお辞儀じぎをする。改めてお礼を言われるとなんだかむずがゆいな。


「パパ。助けてもらったお礼に、ルカさんの武器を整備してほしいんだにゃ」


「武器? 別に構わないが……それはどこに?」


 そうだ。スミスさんはリーシャたちが神器級ゴッズのアイテムであることを知らないんだった。リーシャとレティがそれぞれ元の装備品の姿に戻ると。


「……今のはどういうことだ!?」


「僕のスキルの効果なんです。僕のスキルは神器級のアイテムを人間に出来るみたいで」


「にわかには信じられない話だが……少し見てみてもいいか?」


 スミスさんはリーシャを手に取って、顔を近づけて細部を観察する。感心したようにゴクリと生唾なまつばを飲んだ。


「これは凄い……傷ついている部分は多いが、とんでもない業物わざものだ。俺は初めて神器級ゴッズを見るが……これは本物かもしれないな」


『かもしれないじゃなくて本物なんですけどね! ああっ! ルカさん、この人えげつないくらいジロジロ見てきます!』


 ごめんねリーシャ。我慢して。


「しかし困ったな……こんな逸品いっぴん、俺の手に負えるだろうか……」


 リーシャたち神器級ゴッズは僕の想像以上にすごいアイテムらしい。本職の鍛冶屋さんであるスミスさんですらも修理できないかもしれないらしい。


「パパ、おじけづいちゃダメにゃ!」


 スミスさんが腕を組み唸っていると、メイカがグッと拳を握って言った。


「ルカさんのお願いは、なんとしてもメイカが叶えるにゃ! メイカもこの目を使ってお手伝いするにゃ!」


「おお、確かにそれならなんとかなるかもしれないな!」


 メイカは目の前でピースをしてキラっと輪郭りんかくを作る。『目を使う』ってどういう意味だろう?


「メイカのスキルは<ヘファイストス>。装備品の特徴を分析することができるんですにゃ」


 そりゃまた鍛冶師っぽいスキルだなあ。僕はリーシャのスキル、<サンシャイン>を発動する。


▼▼▼▼

メイカ・マイオニア レベル1

スキル

<ヘファイストス>

アイテムの使用・製造・修理方法を『視る』ことができる。その程度はアイテムのランクによる。

▼▼▼▼


「すごいスキルだね。逆になんで今まで荷物持ちをやってたの?」


「メイカは英雄えいゆうの物語が好きで、どうしても冒険者になりたかったんですにゃ。そろそろ辞め時だと思ってたから、ちょうどよかったくらいですにゃ」


「この子は生まれつき才能があったからな。俺としては、仕事を継いでほしかったんだが……娘の夢を邪魔するわけにはいかないだろ?」


 なるほど、理解のあるいいお父さんだね。


「しかし……リーシャさんの情報はほとんど見ることができないですにゃ。まるで強い光を放ちすぎて、目がふさがれている感じですにゃ」


『当たり前ですよー。だって私、神器級ゴッズですから! レアアイテムですから! どーですルカさん。私の凄さ、わかってきました?』


 リーシャがうるさいので話を進めるとして。


「どう? 修理できそう? ボロボロになっている部分だけでも直ったらいいなあって思うんだけど……」


「他でもないルカさんのお願いですから、絶対になんとかするに決まってますにゃ! メイカは諦めません!」


 もしかして、それは僕が森の中で言ってたやつを真似してるんだろうか。心なしか表情まで真似されている気がする。


「パパ、さっそくリーシャさんを修理するにゃよ!」


「おう! 全身全霊で行くぞ!」


 猫耳親子は元気よくそう言うと、工房の奥の方へ行ってしまった。レティと僕だけがポツンと残される。


「私は後みたいね」


 人間の姿に戻ったレティ。


「そうだね。ちょっと待ってようか」


 工房の外にベンチがあったので、座って待たせてもらうことにした。


「そうだ、レティ。とんとん拍子で僕たちの後についてきちゃってるけど、大丈夫なの?」


「なにが?」


「ほら、レティは人間の姿になったんだし、何をするのも自由だよ。リーシャは僕についてきたけど」


 僕がそう言うと、レティは少し考えて。


「でも、ルカの後について行った方が、興味あること多そうだから」


「そっか」


 どうやら、レティも僕の仲間になってくれるらしい。


「レティのスキルを見てもいい?」


「うん」


▼▼▼

ルカ・ルミエール レベル42

スキル:

<アーマー・コミュニケーション>

装備品と心を通わせることができる。程度は装備品に形成された人格に依存する。


装備品:

幻鎧げんがいシュレティング

スキル

<イリュージョナル・スタイル>

実体を変幻自在へんげんじざいに変えることができる。

<マジカル・ミラー>

反魔法効果を付与する。

<インビンシブル・アーマー>

どんな攻撃でも一度だけ無効化することができる。1体の相手に対し1日1回のみ使える。

▼▼▼


「なるほど、レティのスキルは防御に関するものだね」


 <イリュージョナル・スタイル>はもう何度も見ているから飛ばすとして。二つ目の<マジカル・ミラー>はヴェルディのパーティの魔導士ウィザードの魔法をはじき返したものだろう。そして、驚くべきなのは三つ目の<インビンシブル・アーマー>。


「これって、本当に『どんな攻撃でも無効化』できるの?」


「ええ。それがなければあの子を危険に晒すような真似はしないわ」


 そういう意図があって、メイカに攻撃するように仕向けたのか。ただ危険なことをさせていたわけではないらしい。


「そうだ、レティはどうしてあの場所にいたの? リーシャはダンジョンにいたんだけど、何も覚えてなかったんだ」


 僕がそう問いかけると、レティは少し頭を悩ませて。


「……わからない。ただ、誰かが昔、私のことを使っていた……ような気がする」


「レティを所有している人がいたってこと?」


「そうね。私のことを装備して、敵と戦った人がいた……ぼんやりと記憶にあるわ」


 神器である彼女を装備していた人か。きっとすごい人なんだろうけど、情報がないから何とも言えないな。



 そのあと、リーシャの整備が終わり、同じようにレティがピカピカの鎧になるころには、すっかり夕方になっていた。

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