第15話 不思議な人
ルカさんというのは、本当に不思議な人だ。
真っ暗な森の中で迷子になっていたメイカの声を聞きつけて助けに来てくれた。ゴブリンや他のモンスターだって、簡単に倒すことができる。だけど独り言は多いし、やたら
メイカは力が強い人を知っている。同じ冒険者パーティのヴェルディさんや、その仲間たちだ。メイカなんかじゃ全然勝てないようなモンスターでも、一瞬で倒すことができる、凄い人たちなのは間違いない。
でも、ルカさんと決定的に違うのは、『優しさ』だ。
ヴェルディさんは確かに強いけど、弱い人間には
だからメイカの尻尾はいつも下向き。きっと強い冒険者はみんな怖くて、弱い人に対して厳しく当たってくるんだろうと思っていた。
でも、ルカさんは違った。弱いメイカの話を聞いてくれるだけじゃない。極めつけはメイカが『変な人』って言っても怒らない。口から言葉が出てしまった時は殴られると思ったのに、彼は笑っていた。こんなことは初めてだった。
ルカさんと話していると、心が落ち着く。優しい気持ちになって、尻尾が上を向いてしまう。出会ってからまだ少ししか時間が経っていないが、メイカにはわかる。彼はそんな人だ。
『無理ですって! さっきのゴブリンとトロールじゃ話が全然違いますにゃ! S級冒険者パーティが
『S級だろうとF級だろうと関係ない! 僕は全員のことを助けて見せる!』
強くて、優しくて、かっこよくて。こんなメイカのことも守ってくれる。
メイカはどうしてもルカさんを死なせたくなかった。だからトロールに立ち向かうのを必死で止めていたんだけど――
*
「行くよ! リーシャ! レティ!」
ルカさんは独り言を大きな声で言い放ち、剣の切っ先をトロールに向けた。
その時、トロールの後ろにいるゴブリンたちが一斉に弓を引き、ルカさんに矢を放つ。
「ルカさん! 避けてください!」
一瞬のうちに、弓矢の嵐がルカさんを襲う。集団で行動するモンスターということだけあって、ゴブリンたちの
なのに。ルカさんはそれをかわそうとする気配すら感じられない。まさか圧倒的なこの状況に絶望してしまったのだろうか。
メイカは無力なまま、ルカさんのことも失ってしまうの? 彼のことを見守ることしかできないなんて。
「ルカさあああああああああん!!」
弓矢がルカさんに接近する。メイカは恐怖で思わず目を閉じてしまった。そして、少ししてからゆっくり開くと。
「……あれ!?」
目を疑った。なんと、ルカさんに飛んできていた弓矢が全部折れて地面に落ちているのだ。もう駄目かと思ったのに!
「ど、どうして!? ルカさんは攻撃を食らったはずですにゃ!」
ゴブリンたちがどよめき出す。ルカさんがまったく動じることなく歩いているからだ。焦ったような表情をしながらも弓を引き、どんどん矢を放っていく。
しかし、その矢がルカさんに届くことはない。まるで彼の周りにバリアでも張られているように、彼の目の前で全てベキリと折れて地面に落ちてしまう。彼は一歩、一歩と堂々とトロールへ近づいていく。
「「「ゲエエエエエエエエエエエエエ!?」」」
これにはゴブリンたちも
「ウオオオオオオ!!」
しかし、トロールはたじろぐことはなかった。右手に握った大きな棍棒を振り下ろし、ルカさんを押しつぶそうとする。
「ルカさん! トロールの一撃は絶対に避けてください! さすがに死んじゃいますよ!!」
私は心配になって声を上げた。しかし、ルカさんは回避しようとする
「よっと」
その時、ルカさんはまるで荷物でも持ち上げるような声を出し、左手を上に掲げた。
「ウオオオオオオオオッ!?」
トロールが驚くのも当然だ。自分の半分の背丈もないような人間が、自分の会心の一撃を軽々と止めているんだから。
「今度は……こっちの番だ!」
ルカさんはそう言って、剣を振り上げた。光の斬撃が飛び、トロールの左腕を切り落とす。ヴェルディさんを掴む力が弱まり、彼と一緒にボトリと地面に落ちる。
そうか、ヴェルディさんを助けるために腕を斬ったんだ。それにしてもまるで
腕を斬り落とされたトロールは、恐怖に顔を歪める。森の王者として
「ウオオオオオオオオ!! ウオオオオオオオオ!!」
もはややけくそとばかりに、トロールは声を上げながら棍棒をブンブン振り回す。まるで子供のようだが、あれを食らえばひとたまりもないだろう。
「あんまりいたぶるのは趣味じゃないんだ。それに、ヴェルディさんのことも助けられた。だから――終わりにさせてもらう」
ルカさんが剣先を棍棒にぶつけると、一瞬にして棍棒が粉々になる。あれだけ恐ろしかった武器が、今は完全に木くずだ。
「終わりだっ! <セイクリッド・ストライク>!!」
ルカさんはそう宣言し、地面を蹴り上げる。剣を振り下ろすとトロールの体が綺麗に真っ二つに割れ、大きな地響きとともに地面に倒れた。
S級冒険者パーティが
大将が負けたことで、ゴブリンたちはゾロゾロと逃げ出した。まるで
「ルカさん! ルカさん!」
メイカは、一目散に彼の元に駆け寄った。なんだか涙が出てきてしまった。
「ちょっ、メイカ!? なんで泣いてるの!?」
「ルカさんが生きててよかったですにゃ! 怖かったですにゃ!」
「わかったから! 抱き着かないで! それは問題あるから!」
ルカさんは顔を真っ赤にして言う。本当に変な人だ。こんなに強くてかっこいいのに、メイカがちょっと触っただけで顔を真っ赤にするなんて……。
「馬鹿ですにゃ! ルカさんは馬鹿!」
「あ、今ルカさんのことを馬鹿って言いましたね! それで言ったらあなたなんか猫人間じゃないですかあ! 撤回し……あああああああああああ!! 虫がああああああ!!」
「リーシャ!? 本当に何をやってるんだお前は!?」
いつもの間にか、リーシャさんが彼の後ろに立っていた。
「……メイカ、心配かけてごめんね」
ルカさんはそう言ってメイカの頭を撫でてくれた。本当に不思議な人だ。
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