第13話 夢幻を身に纏って

「ウゲゲゲゲ!!」


 茂みをかき分けて僕たちの前に現れたのは、森に擬態ぎたいするような緑色の肌をした小人、ゴブリンだ。体長は60センチほどで、奇怪な笑い声を上げ、こちらに突き進んでくる。


「1、2、3……6体もいますにゃ!? ルカさん逃げましょう! F級冒険者じゃ無理ですにゃ!」


『さっきから事あるごとにルカさんのことをF級扱いしてきますね! 仲間とて許せぬ! ガルルルル!!』


「リーシャ! 忙しいからちょっと静かにしてて!」


 向かってくるゴブリンに対して、リーシャのスキル、<サンシャイン>を発動する。すると、視界にゴブリンのステータス情報が現れた。


▼▼▼

ゴブリン レベル1

特徴:一般的なゴブリン。集団で行動する。知能は低い。

▼▼▼


 レベル1か。ぱっと見た感じ、かなり雑魚そうだけど……もしかしたらモンスターのレベル1は人間のレベル10に相当する可能性だってある。気を引き締めるぞ!


 僕はリーシャを構え、横一閃よこいっせんする。すると、光の斬撃ざんげきがゴブリンたちの方へ直進していき、豆腐でも斬るように首をはねていく。


「ギャアアアアアアアアア!!」


 横一列で走ってきたゴブリンたちは、もれなく斬撃を食らって全員倒れてしまった。


 ……。


「え、終わり?」


 あまりにもあっさりとした幕切れに、僕は間抜けな声を出してしまった。


『当たり前ですよ。レベル1のゴブリンですよ? ルカさんの方が何百倍も強いんですから』


 何百倍? そんなわけあるかいと思ったけど、リーシャの話し方から察するに本気だ。


「そうだ、メイカは? 怪我はなかった?」


 くるりと向きを変えて尋ねると、彼女はポカンと口を開けてこちらを見ていた。


「……どうしたの?」


「今のは仕込みですかにゃ?」


「仕込み? 何の話かわからないけど、ゴブリンを倒しただけだけど……」


「だから!! それがおかしいって言ってるんですにゃ!!」


 なんだ? 突然騒ぎ出して。怒ってる?


「ゴブリンって言うのは普通、パーティを組んで戦うモンスターです! F級冒険者が5人以上パーティを組んで、初めて対等に戦える相手なんですにゃ! 囲まれたら冒険者生命の終わり、そういう相手なのに!」


 それは知っている。だからゴブリンが出てきたときに警戒したんだけど……。


「でも意外とあっさり倒せたんだよ! なんかよくわからないけど!」


「む、無自覚系ですにゃ。メイカ初めて見ましたにゃ! 無自覚系の人!」


 無自覚系ってなんなんだろう。怒っているんだか驚いているんだかわからないメイカに聞こうとしたその時。


『ルカさん!』


 リーシャが話しかけてきた。


『近くに私の仲間がいるような気がします!』


「仲間……ってことは神器級ゴッズのアイテムってこと?」


『はい。この森の奥に気配を感じます! これはミラクル起こっちゃってますよ!』


 リーシャの話が本当ならこの森の奥に神器があるってことだけど……そんな簡単に見つかるものなの? 勘違いじゃないかなあ。


 とはいえ、それが本当なら気になる。リーシャのガイド付きなら探しにいけるだろうし……。


「ルカさん、さっきから何一人でしゃべってるんですにゃ?」


「まあ、ちょっと色々かな。ところでさ、メイカのパーティは森の奥に用事があったりするのかな?」


「そうですにゃ。今日はトロール討伐クエストのために森に来たんですにゃ」


 トロール討伐と言えば、S級クエストの中でも難易度が高いクエストじゃないか。ドラゴンに並んで強いとされる、森の王者トロールを討伐なんて気合が入っているな。


 トロールは森の奥に生息するモンスターだ。ちょうどいい。メイカのパーティを探しつつ、リーシャが言う神器を探しに行こう。



『そこを右……な気がします』


「感覚でナビゲートするのやめてほしいんだけど、なんとかならない?」


『無理言わないでくださいよ。神器の私の力をもってしても、この程度が限界なんです』


 リーシャの道案内を聞きながら、森の奥へと進むこと30分。途中襲ってくるモンスターを倒し、部位をぎ取りつつも足を進めていく。


 そんな僕とリーシャの様子を見て、メイカは不思議そうな顔をする。


「ルカさんは変な人ですにゃ。いい人なのはわかるけど独り言が多いし、でもとっても強いし……」


 リーシャの声が聞こえないメイカにとっては独り言にしか聞こえないだろう。リーシャを人間の姿に変えれば説明できるんだろうけど、虫にたかられるから嫌だって言いそうだよなあ。


『ルカさん! あれ!』


 リーシャに言われて前を見ると。木の横に何やら黒い影がある。


「あれが、神器……?」


 近づいて見てみると、そこに置かれていたのはボロボロの鎧だった。


『ちょっと触ってみてください!』


 僕はボロボロの鎧に手を伸ばす。すると、リーシャの時のように鎧がまばゆい光を放ち始めた!


「ルカさん!? 何が起こってるんですかにゃ!?」


 メイカが驚きの声を上げると、鎧の光が収まっていく。そこには一人の少女が立っていた。


「……これは。どういうことかしらね」


 つやのある銀髪をツインテールにした少女。肌はリーシャよりも少し青白く、紫色の瞳は寝ぼけまなこだ。特徴的なのはその服装。黒いゴスロリのドレスを着ているのだ。月のような淡い光を放ち、静かに立っている。


 少女が登場した瞬間、リーシャは剣から人間に姿を変えた。


「ええっ!? どういうことです!? 剣が人間になったにゃ!?」


「ごめんその話はちょっと後で」


 リーシャは銀髪ぎんぱつの少女の前に立つ。


「……あなたも、それができるの?」


「ええ。私は聖剣エルリーシャ。あなたと同じ神器級ゴッズアイテムよ」


「なるほど、興味があるわ。確かにあなたとは何か近いものを感じる……」


 銀髪少女は静かに僕に近づいてきて。


「私の名前は幻鎧げんがいシュレティング。どうしてこうなったのかはわからないけど……あなたがやったこと?」


「うん。僕のスキル<アーマー・コミュニケーション>は、神器級ゴッズアイテムを人間にする能力があるみたいなんだ。だからシュレティングもその姿になったってわけ」


「レティでいいわ。……まったく未知のことだけど、嫌いじゃない。興味あるわ」


 見た目はリーシャより幼く、13、14歳くらいに見える。しかし喋り方はとても大人っぽくて、落ち着いている。


「私に何か用? と言っても、こんなことは初めてだから何もしてあげられないと思うけど」


「なんだか私のレーダーに反応があったから探してみたんです! だから何か用事があるってわけじゃないんだけど……」


 リーシャが言いかけたその時。


「うわあああああああああ!!!」


 すぐ近くで、男の叫び声が響いた!


「あの声は……ヴェルディさんの声ですにゃ!」


 メイカが言うんだから間違いないだろう。なんだかピンチな予感がするし、急いで助けにいかなくちゃ!

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