第9話 セシルという少女
セシル・リーベリアにとって、ルカ・ルミエールという少年は、まさしく生きる意味だった。
彼女は今でこそS級冒険者として、パーティの要である
彼女が長く伸ばした水色の髪と、
『魔女は森に帰れ』などと
6歳のある日、セシルはいつものように年上の子供たちにいじめられ、夕暮れの中、一人で泣きべそをかきながら
「君は、何で泣いてるの?」
その時だった。優しい声が、幼いセシルの
「べ、別に……なんでもない……」
「なんでもなかったら泣くはずないでしょ。ねえ、話聞かせてよ」
これがセシルとルカの出会いだった。ルカは彼女の話を
一番の驚きだったのは、ルカがセシルの話を一切バカにしなかったことだ。同級生たちに話を聞いてもらえなかったセシルは、初めての出来ごとを不思議に思った。
「……ねえ、ルカはどうして私の話を聞いても笑わないの?」
「魔女のこと? だって、魔女ってかっこいいよ。僕も魔法を使えるようになりたいな」
ルカの不思議な点は、話を聞くことだけではなかった。彼自身が夢を語り始めたのだ。聞けば、ルカは世界で一番強い冒険者になりたいらしかった。
「僕は剣と魔法を使って、たくさんの人を助けるのが夢なんだ。だから魔女をカッコ悪いとは思わないし、セシルのことを笑ったりしないよ」
その日から、セシルの人生は変わった。
二人はよく一緒に遊ぶようになった。周りの誰に馬鹿にされたってかまわない。二人は誰よりも仲良しになり、セシルはよく笑い、誰とでも打ち解けられるようになった。
そして、彼女にとって『目標』ができた。ルカが世界で一番の冒険者になるならば、自分はそんな彼にふさわしい冒険者になること。いつまでもルカの隣で、彼の夢を叶えるために共に走り続けられる人間でありたい。セシルはそう心に誓ったのだった。
二人の出会いから四年の月日が流れ、神殿でスキルの
ルカのスキルは<アーマー・コミュニケーション>という、今までに
だから、自分のスキルが<魔法適性・特大>という千人に一人の当たりスキルを手に入れても、激しく喜ぶことはなかった。
「これはまだ通過点。ルカの隣に立てるような、強い魔法使いにならなくっちゃ!」
ルカの仲間になる『権利』
16歳の若さでS級冒険者パーティに勧誘されるということは、冒険者にとっては名誉なことだった。誰もが羨み、尊敬のまなざしで彼女を見る。セシルはこれから、一流の冒険者たちの中で仕事をするのだと、誰もが思っていた。
しかしセシルは違った。S級冒険者パーティというのはあくまで通過点に過ぎない。彼女の目標は、『ルカとともに世界で一番の冒険者になること』だからだ。
最初はルシウスの誘いを断ろうとしたセシルだったが、彼女の中である考えが浮かぶ。
『そうだ! このパーティにルカを入れて、世界一になればいいじゃん!』というものである。
なんともふざけた考えだが、セシルはいたって真面目であった。ルカを荷物持ちとしてパーティに入れることを条件付け、
「ルカ、あなたならきっと荷物持ちからでも一番になれる。私に生きる道をくれた、あなたなら!」
そんな彼女は今、息を荒げながら街の中を走っていた。人とぶつかりながらも、懸命に辺りを見回す。
ルカがいなくなったという報告をルシウスから聞いたのだ。パーティのメンバーがルカのことを嫌っているのは知っていた。だから彼らに捜索を任せていても見つかるはずがない。そう確信したセシルは、自分の足で探し回っているのだ。
「ルカ! ルカ!」
もしかしたら、パーティの居心地が悪くてどこかへ去っていってしまったのかもしれない。あるいは、自分のことが嫌いになってしまった、なんてこともあり得る。セシルの
あの日、自分はルカの夢を叶えるために強くなると決断したのだ。ルカを失ってしまうことはすなわち、自分が生きる目標を失くすことと同じ。それだけは絶対に避けたかった。
ルカのことはなんとしてでも自分が見つけ出す。そして、今まで無理やりパーティにとどめてしまったことを謝るのだ。
セシルは自分が思いつくかぎりの場所をあたり、ルカを探し続けるのだった。
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