第8話 漆黒の烏(ブラック・レイヴン)
ルカとリーシャの二人がダンジョン『
昨晩、新米冒険者パーティがダンジョンに潜ったところ、なんと35層まで、モンスターが『全く』存在しなかったという報告があったのだ。
ダンジョンにモンスターが現れる仕組みはまだ判明していない。
しかし、その新米パーティがダンジョンに潜った時、モンスターはたったの一匹すら残っていなかったのだ。そのすべてが命を奪われ、素材の
極めつけは、現在のギルドS級1位パーティの『
バフォメットはそれほどまでに強かった。その圧倒的な
これだけでも怪物級の強さだが……厄介なのが、バフォメットは攻撃だけが強さの理由ではないということだ。
口から放たれる黒い
これまでの攻略を順調に――と言っても、一階層あたり1か月程度の時間をかけているわけだが――進めてきた
実際、パーティメンバーの一人が、バフォメットの瘴気を浴びて、数日ほど
そんな、神話に出てくる怪物のような圧倒的な強さを誇るバフォメットが死体で発見され、あろうことかそこは通過点だとでも言うように、35層まで一直線に攻略されていたのだった。
この情報を聞いた金色の獅子たちは、あまりの衝撃に冷静さを欠き、
そして、それら報告の中で一番、
「俺たちは見たんだ! 真っ黒の男と美しい女がダンジョンから出てきたのを!」
なんと、新米冒険者たちは35層まで攻略した冒険者の姿を目撃したのだという。
男の姿は、例えるならまるで『影』。全身が真っ黒で、何故か顔すら確認することができなかったという。黒ずくめの姿で、月の光を受けて
そして、その男の横を歩く女。冒険者たちは彼女を見て、思わず息を飲む。絹のような金色の髪、陶器のように白くなめらかな肌、まるで全てを見透かすかのような
特徴的な二人組だったが、何より目立ったのは臭いだった。
その二人とすれ違った瞬間、鼻をつくような悪臭がしたというのだ。それは近いもので言えば生ごみのような、何かが腐っているような……形容しがたいものだったそうだ。
冒険者ギルドは、新米冒険者パーティの報告を受け、金色の獅子を
常闇の洞窟に限らず、ダンジョンに入る許可が出されているのは冒険者のみ。ましてや35層まで行くほどの強者は冒険者であると考えたギルド職員は、バフォメットを倒した黒ずくめの男と女神のように美しい少女を、
本来、S級パーティまで上がるには、パーティに最低1名、S級冒険者がいなければならない。そしてその上で何百ものクエストをこなし、A級パーティと比べて圧倒的に実力があることが証明されなければならないのだが、ギルド職員としては高ランクのクエストをこなせる人間が少しでも多い方がありがたい。そんな事情もあって特例的にだ。
何より、そういうことにしておかなければ、ランク付けシステムに否定的な意見が出てしまう。
そのS級パーティを、黒ずくめで生ごみの臭いがするという特徴から『
一晩のうちに常闇の洞窟のフロアボスが倒され、35層までの攻略が終わり、数少なく
『何かが変わる』。話を聞いたすべての人間にそう感じさせる一件。噂はしばらくの間、ギルドの中だけでなく町中でもちきりになる勢いだ。
ギルド職員たちは、漆黒の烏に該当する二人組がいるなら、すぐに名乗り出てほしいという言葉を最後に添えて、報告を終了した。
もちろん、何時間もダンジョン攻略をして疲れ切ったルカと、新しい世界に心をときめかせるリーシャの二人は次の日の夕方まで宿屋でゆっくり休んだため、そんな話が耳に入ってくるはずもなかった。
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