第7話 全貌が見えてきた

「ここが人間の宿ですかー! すごーい!」


 宿で部屋を借りてかぎを開けると、一番にリーシャが嬉しそうに声を上げた。


「見てくださいルカさん! ベッドがフカフカですよ! ミラクル起こってます!」


 リーシャはベッドをトランポリンにしてキャッキャと騒ぐ。小さい子供のようだ。


 ますます信じられないよなあ。無邪気に笑う彼女の表情は、人間らしさに溢れている。神器級ゴッズの聖剣エルリーシャだなんて言われても。


「む。どうしたんですかルカさん。そんなに疑わしそうな目で私のことを見て。私のことおのぼりさんだと思ったんでしょ!」


 リーシャはジト目で僕を見つめる。おのぼりさんって今どき言わなくない……?


「いや、改めてリーシャって人間にしか見えないなと思って。まだスキルで人間になったって確定したわけじゃないしさ……」


 <アーマー・コミュニケーション>は武器を人間にするような便利なスキルじゃない。今のところは神器級ゴッズのアイテムだけを人間化できるということで結論付けているけど。


「心配性なんですね。でも起こったミラクルはもう受け入れるしかなくないですか?」


「そういうリーシャはカラッと受け入れるよね。まだ何時間かしか経ってないのに……」


 ルシウスにダンジョンの穴に突き落とされ、リーシャに出会って、ダンジョンのボスらしきモンスターを倒して、ダンジョンから生還して……今日は色々なことが起こりすぎだ。間違いなく僕の人生で最も密度が濃い一日だった。頭がパンクしそう。


「僕なんか未だに信じられないよ。あんなモンスターを一瞬で倒せるようになっちゃうなんて……」


「そんなに信じられないなら、見てみますか?」


 リーシャの言葉に、『えっ』と返そうとすると。


▼▼▼

ルカ・ルミエール  レベル:42

スキル:

<アーマー・コミュニケーション>

装備品と心を通わせることができる。その程度は装備品に形成された人格に依存する。


装備品:

聖剣エルリーシャ

スキル:

<ホーリー・ヒール>

所有者の体力を常時回復し続ける。

<ホワイト・ケア>

所有者の状態異常じょうたいいじょうを回復する。

<サンシャイン>

所有者に、対象のステータスを伝えることができる。

▼▼▼


「うわーっ!? なんだこれ!?」


「どうですか? ちゃんと見えてます?」


 僕の目の前に突如、半透明はんとうめいの板のようなものが現れた。触ろうとしても、まるで幽霊ゆうれいのようにすり抜けてしまう。なんだこれ。僕とリーシャの情報が表示されてるのか?


「これが私のスキル、<サンシャイン>の効果です。ルカさんと私の強さがどれくらいなのかがわかるんです。ステータスが見えていますね?」


「うん。なんか色々書いてある……って、リーシャもスキルを持ってるの!?」


「当たり前じゃないですか。神器級ゴッズですよ?」


 確かにそう言われると納得できなくもないけど……本当になんでもありだな。


「そうだ、リーシャ。先にお風呂入っちゃいなよ。僕はこれ、もっとよく見たいから」


「お風呂?」


「僕たち、生ごみの山にいたでしょ? 僕たちは鼻が慣れていてわからないだろうけど、ゴミの臭いがするはずだよ。食事に行く前に体を洗ってきてほしいんだ」


「なるほど、湯浴ゆあみですね。じゃあ先に行きましょう! ……くれぐれも、変なところまで見ないでくださいよ?」


 リーシャは再びジト目になって忠告ちゅうこくする。


「見ないよ! 絶対見ない! 誓う!」


「すみません、自分で言っておいてアレなんですけど、変なところって何です?」


「お前がわかってないのかよ!!」


 てっきり、僕が男だから意識して言っているのかと思った。アホだ。この子思った以上に何も考えてない。


 リーシャはくるりと向きを変え、部屋に備え付けられた風呂場に入っていく。僕は気を取り直して、ステータスへと視線を移す。


 まずは僕。最初に気になったのはレベルという項目だ。おそらくこれは人間の強さを数字で表したものなんだろう。42という数字がどの程度を意味しているのかはわからないが、これは後で他の人と比較すればわかるかな。


 そして、今までなんとなくしか理解していなかったスキルの詳細がわかった。『装備品の人格』というのは、装備品が出来てから経た歴史の長さのことを言っているのかもしれない。だとしたら、新しくできたばかりの武器と会話ができないのは当たり前だし、神様に作られ、長い時間を経たリーシャが人間の姿になるのも納得だ。


 10歳でこのスキルに目覚めて、神殿しんでん水晶すいしょうを使って検査けんさをしてもらった時は、スキルの名前しかわからなかったからな。外れスキルだと思っていたけど、リーシャと一緒にいる今はそうは感じない。


 次に、リーシャのスキルを見てみるか。彼女にもスキルがあるなんてビックリだ。しかも三つも……ちょっと嫉妬しっとしそう。


 <ホーリー・ヒール>と<パーフェクト・ケア>は、所有者の体力を回復し、状態異常を回復してくれるものらしい。ダンジョン攻略の時も、もしかしたら彼女のスキルが働いていたのかもしれない。だとしたら全然気づかなかったから、本当に自動で行ってくれるものなんだろう。


 そして三個目の<サンシャイン>は、今僕が見ているステータスを表示できる能力。これを使えば、他の人やモンスターのステータスも見ることができるなら、実力を測るのに使えるかもしれないぞ。



 ……とまあこんな感じか。まだ僕とリーシャの情報しかないからなんとも言えないけど。とにかく明日、色々気になることを調べてみようか。


「ふー、いいお湯でした! ルカさーん! 次どうぞ!」


 スキルを一通り見て、少し休んでいると、リーシャが浴室から部屋に入ってきた。


 ――一糸纏いっしまとわぬ姿で。


「!!? リーシャ! ちょっと!?」


「なんですか、突然大きな声を出して?」


「服着て服! そんな格好で来ちゃ駄目だよ!」


「着た方がいいですか? 外で歩いてるときも邪魔だなと思ってたんですよ」


「剣でもだよ! 目が当てられないから!」


 あーもう、ちょっと見ちゃったよ! リーシャの女性らしい丸みを帯びた体のラインが、一瞬で目に焼き付いてしまった。


「第一、さっき『変なところは見るな』とか言ったばっかりじゃん! 羞恥心しゅうちしんはどこに行ったの!?」


「それはそれ、これはこれですよ。そもそもルカさんは私の剣身けんしんを見てますよね? それってもう同じことじゃないですか。だから別に私はこのままでも――」


「いいからさっさと服を着て!?」


 騒いでいたら、隣の部屋に泊まっている人に壁をぶっ叩かれた。

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