第4話 階段を昇れ

『ルカさん! 前からモンスターが来てますよ!』


「了解! おりゃっ!」


 リーシャの指示しじを受けて、僕を噛み殺そうとするオオカミ型のモンスターを両断する。


『次は右からです!』


「こっちも大丈夫!」


 次にやってきたのは、ゴリラ型のモンスター。少し遅かったら押しつぶされそうなところだが、これも危なげなく倒す。


 ダンジョン脱出を試みてから30分くらい経っただろうか。僕とリーシャは協力してモンスターたちを倒しまくっていた。


 こんなところ見たことがないから、今までに来たことがある25層よりも奥にいるんだろう。手探りだが、着実ちゃくじつ探索たんさくは進んでいる。


「なんか、リーシャを使っても反動はんどうがなくなってきたよ。剣の振り方が上手くなってきたってことかな?」


 それに、モンスターと戦うたびに一撃いちげきごとの威力も上がってきているような気がするぞ。最初とは比べ物にならないほどだ。


『おそらく、ルカさんが成長しているんでしょうね。モンスターとの戦いを重ねるごとに、身体が強くなるというのは聞いたことがありますから』


 なるほど、そりゃ今までモンスターと戦ってこなかった僕が、急にこんな強そうなモンスターと戦い始めたら、急成長もするよね。どういう原理げんりなのかはわからないけど。


「さっきからブンブン振り回してるけど、リーシャは疲れてない?」


『はい! むしろ今までずっとあのゴミの山にいたものですから、久しぶりに体を動かして清々すがすがしいくらいですよ!』


 なんだかリーシャがはつらつとした笑顔で言っているような気がする。喜んでくれるなら僕も嬉しい。


『ルカさん! また来ますよ!』


「わかった! いくよリーシャ!」


 僕たちは再びモンスターたちとの戦いを続けた。



 さらに何分くらいかして。とうとう僕たちはダンジョンの階段を見つけた。石レンガで作られた、シンプルな見た目だ。


「やっと見つかった……」


『これがダンジョンの階段ですか。意外としっかりしてるんですね』


 ダンジョンには、層と層をつなぐ階段が設置されている。意外と大きくて、二人くらいなら横並びでも歩くことができる。


「これでやっと一層を攻略かあ……地上にたどり着くまでにどれくらいかかるんだろう」


『大丈夫ですよ。聞けばダンジョンでは上に行けば行くほどモンスターは弱くなっていくそうじゃないですか。23層からはルカさんが出口を覚えてるみたいですし、なにより私がいます!』


 リーシャはやけに自信たっぷりだ。実際、ここまでモンスターを倒してきたのは彼女のおかげだし、否定はできないけど。


「よし、どんどん行こうか!」


『はい! どんとこい、です!』


 僕は思いきり階段を踏みしめ、上の層へと移動する。



 そこからは、一層あたり30分くらいかけて攻略を続けていた。モンスターが現れたら斬り捨て、階段を見つけたら昇る。モンスターが出たら切り捨て、階段を見つけたら昇る……というように、着々と出口を目指していた。


 リーシャがあまりにも強すぎて、いちいちモンスターを相手にするのも退屈たいくつになっていた。僕の体はみるみるうちに強くなっているらしく、もはやリーシャの扱いも見違えるほど上手になった。


 モンスターをただ倒し続けるのも面白くなかったので、僕は剣の扱いを練習することにした。ルシウスたちの戦いっぷりを今まで端っこで見ていたから、なんとなくそれを真似することはできた。見様見真似みようみまねではあるが、回数を重ねるごとにどんどん精度せいどは上がっていく。


 だけど――しばらくして、真似をすることにも飽きてきた。動きはなんだか単調たんちょうだし、なによりこの動きではリーシャの美しさと強さを活かせていない気がするのだ。


 それにルシウスたちの動きは、仲間がいることを前提ぜんていとした立ち回りだ。僕には仲間がいないんだから、彼らの動き方を真似しても意味がないに決まっていた。


 というわけで、途中からオリジナルの動きを開発することにした。ルシウスたちの動きを基本として、ソロだからできるだけ相手の攻撃をくらわず、相手を確実に仕留められるように。そして、リーシャがカッコよく見えるフォームで。


 攻略こうりゃくを始めてからまだ攻撃を食らっていないので、モンスターの攻撃でどれくらいダメージが入るのかはわからないが、もしダメージを受けたら、僕には回復かいふく手段しゅだんがない。だからモンスターの動きをよく観察かんさつするようにした。


 そんなことをしていたら、どれくらい時間が経っただろうか。これで何度目かの階段を見つけて、昇ろうとしたその時。僕はある違和感に気付いた。


「あれ……? リーシャ。階段って、こんな感じだったっけ? なんだかいつもより豪華ごうかに見えるんだけど……」


『私もそう思います。今までの階段にはこんな派手な装飾そうしょくはありませんでしたよ。何かがおかしいです』


 今までの階段は、石造いしづくりで、なんだかシンプルな作りだったはずだ。なのにこの階段だけは何故か黒曜石こくようせきが素材になっていて、手すりにいばらのようなデザインが施されている。


「なんでだろう……? 周りのモンスターは普通だったしなあ?」


『もしかして、この上の階が何かの節目なんじゃないですか? キリのいい数字の階だとか』


 なるほど。リーシャ、名推理めいすいり。何かの数字の節目ふしめにわかりやすく目印めじるしがついている可能性はありそうだ。


 ここまで10回階段を昇ってきたけど一度もそんな目印は見てこなかったから、25か35階ごとに階段が豪華になるのかも。ルシウスたちと攻略をした23階層まではこんな目印はなかったし、もしかしたら上の階が25階層だったりして。


 だとしたらだいぶ気が楽だな。あと2回だけ階段を昇れば地上への道がわかるから。ここまでかなり長かったけど、早く地上のを美味しい空気を吸いたいな。


『それにしてもルカさん、凄い集中力ですね』


「なにが?」


『考えてみてくださいよ。私たちが出会ってからかなりの時間が経ちましたよ。なのに、たまに休憩を挟むだけでズンズン進むじゃないですか』


 確かに。一階層あたり体感で30分くらいかけて攻略しているから、かけることの10で五時間くらい経過しているのか。我ながら凄い集中力だ。


「荷物持ちで体力は養われてるからね。それに、早くリーシャと一緒に地上の景色が見たいから」


『ル、ルカさん……『私と一緒に』だなんて……そんなに私のことが大事なんですか?』


 そこまでは言っていないけど。まあそういうことにしておこうか。


 僕は階段を踏みしめ、上の階へと進んでいく。


 階段を昇りきって、僕たちの目の前に現れた景色はこれまでと違っていた。


 入り組んだ迷宮のような構造こうぞうではない。なぜかこの階だけは大広間おおひろまになっているのだ。


『ルカさん! あれ見てください!』


 リーシャに言われて前を見ると。二足歩行のヤギのようなモンスターが僕に背を向けていた。


「あれってまさか……フロアボス!?」

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