名前

奈々星

第1話

山本大平。

俺は自分の名前が嫌いだ。

理由は簡単で意味がわからないから。

自分で言うのもなんだが大した理由もないのにこんな名前をつけられて、俺はかなり可哀想だと思う。


だから俺は自分でこの名前に理由を探して持たせてみた。


大きな志で平等な心も持つように。

きっとこんな願いを込めて親父はこの名前をつけたんだと思い込んだ。


そして今俺は音楽で一旗揚げようとバンドを結成した。


バンドの名前は"flame"

俺たちの魂を燃やしたパフォーマンスで見てる人の心も燃やせるように。

我ながらなかなかかっこいい名前をつけることが出来た。


メンバーは他に3人で、ボーカルは俺。

ベースは二階堂 大地という幼なじみ、

ドラムは木村 心之介という中学時代の親友。

3人で一緒になったのは中学入学と同時に心之介が東京へ越してきてから。


中一の時から同じクラスですぐに意気投合し

よく遊びに行ったりもした。


それから高校に進学し、

バイトの面接を受けるもどの会社も雇ってくれず親の金で遊ぶことしか出来ないことに危機感を覚えた俺が2人をこの道に誘ったのが始まりだ。


俺らはいずれミリオンヒットを達成して日本の音楽シーンを席巻しようという

大きな志を持っていた。


しかし俺たちの音楽はなかなか人に響くことはなく、お金をかけて楽器や機材を揃えたものの、1年路上ライブをして進歩がなかったらやめようという約束通り俺たちはバンドを解散しそのまま離ればなれになった。


俺はそれから必死で自分を雇ってくれる会社を探しバイトに明け暮れた。


たった2人の大切な友達ともなかなか会うことが出来なくなっていた。


そうして高校2年の冬休みにはいる頃、受験に専念するため俺はバイトを辞めた。


それから俺は狂い始めた。

厳しい受験勉強の息抜きにと少しやんちゃな同級生とつるむようになった。


彼らはとても金遣いが荒い。

とても俺の財力がもたないようだった。

それでも俺は彼らと付き合い続けた。


バイトを辞めた俺はまた親の金を奪って遊びに明け暮れることが多くなった。


受験勉強はだいぶ疎かになり、

ついに大学へ進学しない以降を親や学校に伝え始めた。


でもそれには理由があった。

バンドマンとしての夢が諦めきれなかったのだ。それからは今までつるんでいた仲間たちを心の中で軽蔑するようになった。


バイトもしてねぇくせにどこからあんな金が湧いてくるんだ。社会の汚れどもめ。

その点俺は奴らとは違う。

大きな志を持っていて、

どんな人にも平等に接することができて……


俺の心はつっかえた。

俺は大きな志を持っているがそれに向けて正しい努力ができていたのか、どんな人にも平等に接することができていたのか、

考えれば考えるほど今の自分が理想像からかけ離れていく。


それからだった。


俺の心臓が動き始めた。


そう感じることができたのは。


あの1年の路上ライブの日々で俺たちに足りなかったことはなんだ?

もっとヒットしている音楽の勉強をしよう。

盗める技術は全て俺のものにしてやろう。

もっと若者の心をぐっと掴む詩を書こう。


そんな精力的な活動はついに実を実らせた。

かつての仲間たちに声をかけると再びflameを結成してくれると言うのだ。


それまでの約半年ほどの期間俺の魂を燃やして書きためた詩と作り上げた音楽を彼らに聞かせた。


実を実らせた木はいつの間にか大樹まで成長し、やがて俺たちを乗せる大地を豊かにした。


俺たちは路上ライブ、インディーズ活動と着実にステップアップしていき、

ついにメジャーデビューまで決まった。


それからは目覚しい活躍をして世界へと羽ばたいた。


やがて俺たちは還暦を迎える。


それからさらに年月が過ぎ仲間たちが旅立った。


余生をどう過ごそうか。

自然に囲まれてのんびりと思いを馳せらせているとある悩みを思い出した。


大平の意味について。


今ではなんとなくわかる気がする。


大きな志だけではなかった。

大きな心を平等に皆に与える。


ミュージャンのあるべき姿なのかもしれない


そういえば昔、親父が無くなった時の遺物整理の時見つけた1枚のレコード、

どんな音楽が込められているのか幼少の頃聞くと「俺の大切な音楽」としか答えてくれなかった。


もう何十年もたってそのレコードを聞くことにした。


ホコリを払い、レコードをセットする。

そして針を溝に落とす。


「大平………大きくなってるよな。

このレコードを聞いてくれてるんだから

きっとかっこいい漢になれたんだろうな。

お前の名前、意味が無いわけじゃないんだ。


大きな平らな世界へと羽ばたきますように。

大志を抱きますように。

平等に人を愛しますように。

色んな理想を詰め込んだらお前の名前に至ったんだ。

いままで教えなくてごめんな。

お前なら気づくと信じてたんだ。

そしてお前は俺を裏切らなかった。

ありがとう。愛してるぜ。」


大きな涙が落ちていく。


平らな床を濡らしていく。

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名前 奈々星 @miyamotominesota

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