書くということ

希為

第1話


「苦悩」

 私は世を風靡した小説家だった。こいつは天才だ、こんなに素晴らしい小説家はいない。夏目漱石や芥川龍之介を超える存在だなんだともてはやされた。だが私はその一冊で小説、いいや、文字を書くと言うことを一切やめてしまった。ただ怖かった。今まで好きで書いていたものがたった一編の小説で私を心臓を突き刺し、殺すことのできる凶器に変わったのだ。好きで書いていたものが売れた。喜ばしいことだった。だが、次に書いた原稿はボツだった。その次も、その次も。何回と書いてもダメだった。部屋にはグシャグシャになった原稿用紙が散乱した。その全てがお前は駄目な奴だと後ろ指を指してくる。私の好きは売れた瞬間ゴミに変わったのだ。こんなに心苦しいことはない。読者諸君そして小説家を夢見る人間よ。覚えておくといい。小説家は他人から完璧と称される作品を一作品出せば後に残るのはそれに埋もれてしまうゴミばかりだ。あとは他人に望まれるものを書くだけである。そんなものが小説家というのなら私は喜んで退出した。だが、そんな私に世間はまだ書けと言う。もう君らが望むような素晴らしいものは私には書けない。前述の通り苦しいのだ。書きたいものと世間が望むもの齟齬が生じた場合私は小説家としてどちらを取ればいい。何が正解なのだ?私は皆目見当が付かない。小説家には書けと言う強迫観念しか存在しないのか…







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以上が先日自殺した天才小説家の最後に書いていた小説となります。では次のニュースです

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