第4話 結婚

 ミリシア王国で魔除けの結界師の仕事をしながら過ごしていたある日、オルスト王国から使者がやってきた。


「あの、僕に何か?」

「お願いです、オルスト王国に戻ってきてください」

「ええと、でも僕は王に永久追放されているので、戻ろうにも戻れないのですが……」

「それなら大丈夫です。王は追放を取り消しました」

「取り消し……?」

「ええ、なのですぐに戻ってください」

「急に言われても……。すみません、少し相談してからでもいいですか? それほど時間はかかりませんので」


 僕は一度王女様に相談した。オルスト王国に向かうとなると、一時結界師の仕事を休まなければならないからだ。すると、王女はなぜか一緒にオルスト王国に行くと言った。




「もう見なくて済むと思ったのに、またキサマの顔を見なければならんとはな。よく戻ってきた、ティルよ。ところで、レナ王女はどうしてここに? ワシに泣きつきに来たか?」

「泣きつく? 私は、王に申したいことがあってまいりました」

「ほう、そうか。まあいい。ティルよ、追放は取り消した。すぐにまた我が国で結界師として働け」

「でもその、今はミリシア王国で結界師として働いてまして……」

「そんなもの、辞めればよいではないか。報酬も前の倍をだそう」

「王様、それは無理です。だって、ティルは私と結婚するんですもの」


 突然、レナ王女が僕と王の会話に割り込んできた。

 結婚!? なにかの聞き間違えだろうか? レナ王女と僕が結婚なんて、そんなことあるわけないのに。


「今、なんと申した……?」

「ですから、私とティルは結婚すると言ったのです」

「えええええーーーーーーー!!!!」

「な、なんだとーーーーーー!!!!」

「ティルは私の夫になるのです。オルスト王国で働くことなど、できません」

「あ、あの、僕聞いてないんですけど」

「今言いました。お嫌ですか?」

「そ、そんなことないです! レナ王女様はとっても美しくて、僕にはもったいないくらいです。一目見た時から好きでした。で、でも身分が違い過ぎるし……」

「それなら大丈夫です。ティルはもう男爵になりましたので。それに、父もすでに説得済みです」

「えっ!?」

「結界で王都を守っているのが評価されたのです。さ、行きましょう」


 王女様が僕の手を引いて城から出ようとする。


「ま、まて。ティルにはここで結界師をしてもらわねば困る。魔物に襲われ国は疲弊し、今にも内乱に発展しそうなのだ。頼む、戻ってきてくれ!」

「王様、ティルを追放してくれてありがとうございます。もしティルが追放されていなければ、わが国は魔物に困り、私はあなたに嫁いでいたでしょう。そうなればオルスト王国はずっと大陸の覇者だったでしょうね。感謝します。では」

「……くそくそくそくそー!!!」


 王の叫びが、王城に響き渡った。




 僕の目の前に、純白のドレスを着た王女様がいた。まるで、夢のような光景だ。僕の足は、地面に着いているだろうか? 心も体もふわふわしていて、ここが現実じゃないみたいだ。


「ティル、ぼーっとしてるけど大丈夫?」

「あ、ご、ごめん。なんだか、今でも夢見てるような気がして」

「ふふ、私も。……ね、もし私が最初からこうなることがわかってたって言ったら、信じる?」

「えっ?」

「ミリシア王家の先祖様はね、占い師だったそうよ。占いで皆を導いているうちに、皆の代表になり、村の代表になり、そして王になった。そう言われているわ。だからね、なんとなくわかってたの。あなたが私の王子様だって」


 そういうと、王女様は僕を見つめた。


 僕と王女様以外誰もいない教会。二人だけの時間が流れる。


 正式な結婚はまだまだ先だ。これは王女様のわがまま。二人だけで結婚式がしたいと王女様が願い、騎士が用意してくれたわずかな時間。


 王女様はゆっくりと僕に近づき、目を閉じた。僕は彼女を抱き寄せ、そっと唇を触れさせた。




 それから僕と王女様が正式に結婚するまで、そう時間はかからなかった。

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魔除けの結界師、国から追放され、隣の国の王女に拾われる セラ @sera777

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