探求続行
されど暗澹は変わらず
深山には二人以外の人影など無く、そもそも修行者が踏み入れ開いたような場所を歩いてさえいない。足を止めれば忍び寄る畏怖の静寂も意に介さず、ひたすらに前を行く二人組は、鬼――雷雅と風晶だった。
「ふふふ。だんだん懐かしくなってきたなぁ。あともうちょっとで志乃を拾った場所の近くに出られるんだよねー」
時おり、雷雅は声を発していたが、風晶が応じないため
「そういえば何故、あれに『しの』と名付けた。明篠郡で拾ったからか」
「そーだよー? 明の部分から付けるのでも良かったかもだけどー、篠の方は竹だからさ。長生きしてほしいなぁって思ったから、そっちから取ったんだー」
人間が語っているなら温かい理由だが、雷雅が語っては悪寒しか走らない。風晶自身がその「長生き」を証明するような存在なのだから、なおさら。
げんなりして口を閉ざす風晶に対して、応じてもらった雷雅は途端に上機嫌となる。自分の美貌など物ともしない相手と久々に話せた他、思った以上のお気に入りができてしまったせいで、容易く機嫌が良くなる状態から抜け切れていなかった。
「いつかまた来るだろうなーって思ってたけどー、地理の情報は足掛かりが一番掴みづらかったもんねぇ。でも、一つ見つければ
舞うように歩いていく雷雅へ、そのままどっか
「あの子……木下喜千代も、ずーっと不思議だったもんねぇ。いくら実力主義の境田家だからって、当主になるような人間の傍に、身元が不鮮明な副官を抜擢するなんて。まあ、何か動きを見せる奴がいないかっていう
弾む声の中で唯一、距離を感じ取れる縁取りで発せられた名前。境田兼久の副官扱いとなっている木下喜千代こそ、雷雅を藍山府へ進ませた理由の一つ。利毒がつけたおまけというのも、
「でも。藍山府の出身者に、何故か実力者がたーっくさんいるっていうことについてはー、色護衆も長らく探りを入れてるからねぇ。忠彦と寿々乃だって、藍山府で拾われたんだし」
稀代の守遣兵、人妖兵と謳われた二人組を気安く呼びつつ、後ろ歩きに切り替えながら振り返った雷雅は、黄金の双眸を繊月にする。ただ純粋に、知りたいことを調べているだけの鬼は、それだけなのに恐ろしい。
「ぁはは。これから何が見られるのかー、楽しみだねぇ、風晶」
ろくでもないことしか待っていないと分かり切っているのに、何が楽しいのか。などという返事は無かったが、雷雅は満足と言わんばかりに前へ向き直った。分からなかったことが分かる楽しみが、雷雅の空虚をとっくに埋め尽くしていたので。
舞い
やがて、森閑の帳が降ろされた秘境は押し黙った。風も消える深山には、ただ暗澹が凝るばかりとなった。
〈友士灯―ともしび― 探求編 了〉
〈継承編に続く〉
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