ひとりたつ

 暗闇が恐ろしかった。だから明かりを灯していた。一人でいるのが恐ろしかった。だから明かりを灯していた。

 自分にあるのはそればかり。目が利かなくなってしまう夜を、耐えしのぐことばかり考えていた。気付いた頃には独りぼっちだったので、一緒に笑ってくれる誰かを、自分を守ってくれる誰かを探していた。探し求めて、さまよっていた。

 夜を恐れているのに、誰かと一緒にいられるのは、いつも夜だった。煌々こうこうと、青い怪火を灯していれば、光を求める誰かがやって来た。枝垂しだれる柳のとばりの内で、孤独を忘れさせてくれた。泣かないように鳴いていれば、別の声も返ってきた。


 けれど、自分の体は、いつまで経っても冷たかった。きっと半分は、内側は、心側うらがわは、死んでいたのだと思う。諸共もろともいなくなってしまった、かつての家族たちと一緒に、坂を下ってしまったのだと思う。

 温かな日々の黄を忘れ、冷たさだけが残った青。それを映した炎など、思えば誰も惹きつけはしない。寒々しくて、陰鬱で、夜の中では不気味なばかり。だというのに、いや、だからこそか。さみしいと泣き暮らしていたこの身は、いつの間にか、温めようとやって来た者たちに囲まれていた。

 柳の下に、夜を越して朝を待てる家ができた。恐れる必要のない昼間は、川へ釣り糸を垂らして過ごせるようになった。穏やかだった。なごやかだった。あたたかかった。あたたかかった。大切だった。愛していた。


 それが――踏みにじられて、汚されて、冷え切った残骸にされてしまった時。どうすればいいのか、分からなかった。


 おこしてもらった火は消えて、二度目に灯した火は消えて、体は再び冷たくなった。かなしみも、いかりも、うらみも、くるしみも、なにひとつやどってくれない。じぶんはしんでしまったのだ。どんなに肉体が生きていようと、こころはしんでしまった。

 生きているのか、死んでいるのか。生きながら死んでいるのか、死にながら生きているのか。わからない。わからなかった。ぐるぐるぐるぐる、ぐるぐるぐるぐる。地の底へ落ちることも、この地を離れることもできず、うずくまって、動けなくなって、動くことを諦めて。冷たくて、寒くて、さみしくて。帰りたくて、かえれなくて、羽ばたかないまま夢へと逃げた。あけることのない夢が、喪失など無い幻が、うつろなうろを満たしてくれた。


 青く空ろな光があった。蒼く虚ろな光があった。それだけだった。光はただ照らすだけ。あたたかくもなければ、何かを燃やす音もしない。照らすだけ、なくなったものを暴くだけ。ここに、熱を抱いて生きるものなど無いと、明らかにするだけ。それでは冷たくて、寒いばかりだから、虚像の中にものを詰め重ねた。火を燃え続かせられるように、たくさんの葉を敷き詰めた。

 五井は生きている。小は生きている。大は生きている。中は生きている。白は生きている。亜麻は生きている。黒は生きている。紫は生きている。紗々ささは生きている。よしは生きている。生きている。生きている。生きている。生きている。言葉語りを重ねた。言葉騙りを重ねた。言葉偽りを重ねた。言葉詐りを重ねた。

 そうやって重ね続ければ、ほら。虚像だって実像になる。かつての日々が戻ってくる。夜を恐れる必要も、ひとりを恐れる必要もない。だってみんなここにある。新しく作った正気を保って、貫き続ければ、この夢だってうつつになる。


 夢? 幻? いいえ、何を言っているのやら。ずっと目を開いているのだから、ずっとはなしを重ね続けているのだから、ここが現に決まっている。

 喜びを描く。怒りを描く。哀しみを描く。楽しみを描く。描いた絵をまとう。被る。羽織る。演じる。塗り重ねる。重ね着る。重ねてしまえば、おびえた夜は彼方かなた、華やかな夜が此方こなた。枯れ落ちた蒼失そうしつの日は彼方、青茂る春の日が此方。


 覚めることなき夢を、冷めることなき春を。火は燃え続け、陽は照り続ける。暗夜など来ない、あるのは白昼だけ。雨など降らない、空はいつでも晴れている。

 青く染める。染め直す。いつだって美しい青色の日々。生者だけが見上げられる碧天へきてんの日々。青空をここに、青空を映した海原をここに。曇らない快晴を、涙知らずの天空を。音も熱も無くていい、ただ、真っ青な日々をくれ。寒冷などとは無縁の、満たされた日だまりをくれ――。


『散りゆく夢幻よりはなむけの実を』


 鳴きうたい続けた日々を、呼び戻し続けた日々を、終わらせる声がした。

 真っ蒼なひびが入る。割れ目から光がにじみ出す。赤が滲む。白が滲む。紫が滲む。暮れない日々が紅に染め変えられていく。昼寝は終わった。夕方が来た。もう間もなく夜が来る。冷たいばかりの夜が、大嫌いな夜が、恐ろしい夜が。ひとりぼっちの夜が。

 皓々こうこうと冷たい月が昇る。闇黒を払い輝く潔白の元、なにもない己が明らかにされてしまう。枯れ果てたすべてを証されてしまう。


 どうして奪うのだ。どうして暴き出すのだ。虚言ばかりを吐き続けた口から、泣き叫ぶ声がほとばしった。震えたのどに痛みが走った。震えた体の内に、痛みが走った。流れ出すことなく溜められていた涙は、とっくに失われて、痛みの行き場はどこにもない。

 ない、ない、なんにもない。うつつに自分の持ち物なんて、ひとつも残っていない。ない、ない、どこにもない。帰る場所なんて、どこにもない。青い夢幻を奪われた先は、明日など来ない無限の夜だ。

 お前はひとりだと、それだけを突き付ける夜の中へ、足を踏み出せというのか。……ああ、でも、そうか。一歩ずつ、怯えながら進む必要なんてない。踏み外して落ちてしまえば、嫌でも夜に呑んでもらえる。


 百花吹雪の形をした、永日の終わり。その最中で、こちらを指し示すきらめきが見えた。花と同じ色をした目で、しかとこちらを見つめながら、向けられた得物の切っ先。

 わたしのことを暴き立てた、あなた。わたしに終わりをもたらした、あなた。美しい花々に囲われた、あなたのなまえはなんでしたっけ。




 青にすがり続けて、蒼く消えていく亡霊ひとり。何もかも失った彼には、虚を真にしようと躍起になっていた彼には、夢の記憶すら残らない。

 かろうじて握りしめていたはずの、底の底に残っていた本当も、うつろな炎と消えていく。絶った火鳥ひとりは跡を濁さず。後には何も残らない。


 ***


 狐火が消えて、鷺の火が消えて、牡丹の花も消えて。残る明かりは月と、花楼最上階に灯された光のみ。


 暗さが増した屋根の上、芳親は片膝をついた。杖のように突き立てた刀に縋り、肩で大きく息をする。全身が沸騰したかのように熱く、少しでも力んだらどこかに裂傷ができ、血がしたたりそうだった。特に目の疲労は凄まじく、眼球そのものが重く感じるどころか、ひどい頭痛まで引き起こしている。

 風晶がただ、立ちはだかるだけの壁で良かったと、心から安堵する。そうでなかったら、牡丹のとりではあそこまで維持できなかったし、風刃ふうじんを巻き込んで押し返すなんてこともできなかった。

 今こうして、呑気に休息を取っていられるのも、そのお陰。風纏う鬼がこちらを抹殺する気であれば、蒼炎を消した直後にでも、首を獲られていたに違いない。


「そうまでして、青鷺を解き放ってやりたかったのか、境田の芳親。いずれ消える炎だったというのに」


 情など窺えず、けれど深い色をした声が問いかけてくる。芳親は首を横に振った。そんな風に評されることでは、なかった。


「……っ、解き放ったんじゃ、ない……邪魔だから、消した」


 現世に合わせ戻った声で吐く言葉が、血に塗れているのではないかと錯覚する。邪魔だから消した。その通りだ。あの蒼炎にくべられていた想念を知りながら、自分の望みを叶えるために、青鷺の悲願を打ち払った。

 消える蒼炎に、最後、崩れていく青鷺の姿を見た。彼を追い崩れ落ちていく、いくつもの影を見た。時間を割けば、青鷺にその声を聞かせてやれるはずだった。禁術で魂を縛られても、その呪縛から解き放たれても、変わらず傍にいると叫んでいた声を。


 留井原とめいはらから穹鏡湾そらかがみわんを横切り、江営こうえいへと送り届けてくれた船を思い出す。高らかに謳う青鷺に、笑いながら声を続けた鷺たちを思い出す。青空を、青空を映した海原を行く彼らは、確かにいたのだ。虚から芽吹いたものでも、結ばれた実は、確かにあったのだ。

 それを、何一つ。真っ暗闇へ落ちていった一羽ひとりに、伝えられなかった。伝えるよりも、さっさと消し去ることを選んだ。満足な助け方はできないと分かっていても、選択が体のしんを焦がしている。


 笑みとなって表れたぎる、戦意と高揚が健在な隣で、歯噛みとして表れる後悔も渦巻いている。相反するはずのそれらは、どちらも同じくらいに膨らんで、一つの体を圧迫している。両立しえないはずのものが、矛盾することなく共存している。人の観点からすれば異常なことだ、ありえない。

 だが、その解明は今でなくてもいい。いま奮い起こすべきは戦意。紛糾飛び交う内側を黙らせ、芳親は目を開く。


「亡者を捨てて、切り札も使い捨てて、出涸でがらしになっても止まらぬか」

「最初に、もう、答え、た」


 危機に晒された友を、助けに行く。

 ぎらつきながらにらんでくる牡丹の目に、風晶も金棒を緩く構え直す。風晶から仕掛けないとはいえ、大きな疲労を背負った芳親がどう動くのか。ある程度の予測を巡らせたそこへ、背後から苦無が飛んでくる。


「時間稼ぎか、産形の」


 変わらない鬼の声に返答はなく、次から次へと苦無の群れが飛来する。蒼炎が消えても、まだ紀定は陰に潜み、気配の在り処も判然とさせていない。

 持ち手の姿が見えないまま、投擲とうてきされた武器たちが鬼を襲う。様々な方角から一波、二波、三波、四波。威力はそれほどではないが、数が多い。それらを金棒が弾く音も積み重なっていく。


「……いや、違う。そうか」


 作業のように苦無を払い続けていた風晶が、不意に眉をひそめ、声を零す。彼自身にしか聞こえないような呟きの直後――盛大な音が鳴り響いた。

 森閑をたたえた暗い双眸、風晶の目が後方を向く。音の出所は、花楼内部へ続く門扉もんぴ。青鷺が出てから閉ざされ、守り阻んでいたその口が、開かれている。傍らには、どこにも見当たらなかった紀定が、その姿を現していた。

 開扉かいひの音に紛れたのか、忽然こつぜんと現れた紀定はしかし、ゾッとするほど生気が薄まっている。顔は青白く、風晶と合った目は虚ろ。妖雛たちの澄んだ空虚とは違い、死が迫り濁った虚ろだ。


麗部うらべ深影しんえいなくして、その術を使うとは。見誤ったな、これは」


 瞳が濁った原因を察し、うなるように言う風晶に、答える声は上がらない。紀定の姿は再び影へと潜り溶け込み、入れ替わるように、四方八方から苦無の波が襲い来る。

 放たれても尽きず、振り払われた際の音はしても、苦無。その正体も自ずと察せられた。一部の苦無を除いて、これらは影から生じたものだ。

 大量の苦無を生じさせるのに加え、紀定の生気が乏しくなっている原因は、産形家が誇る影潜えいせんの妙術に他ならない。中でも今、紀定が行使しているのは、自身も得物も、影とほとんど一体化させる術。


 己という個を薄れさせ、自在に動き回ることで相手を撹乱かくらんする、産形家の真骨頂。しかしこの妙術は、使い手の自我を曖昧にして崩壊を招く側面を持ち合わせ、発狂や痴呆ちほうを引き起こしかねない狂気の術でもある。

 影を支配下に置くことで、その場一体の主となる麗部の深影があれば、自我を失うことなく安定して撹乱を行える。しかし、今の紀定には、支えとなる直武がいない。精神崩壊の危機、長じれば命すら脅かされる危険と隣り合わせになりながら、鬼を相手取っているのだ。声を発さないのも、無事戻ってくるために、極限の集中を要しているからに他ならない。


 変わらず、飛来する苦無を風刃や金棒で振り払いながら、風晶は内心で感嘆していた。直武というくさびが不在の中で、高度な撹乱を実現させる紀定の手腕に。


「……ああ、だが。既に境田のが命を懸けた。ならば、応えぬ道理はあるまい」


 察せられた動機、心意気に。


 芳親にも言ったことだが。千に届くほどの時間、腕を鈍らせず磨き続けた風晶と、駆け出しの若人たちには天地ほどの差がある。風晶が雷雅を憎悪し、逆らえなくても極力従わない姿勢を取っていなければ、とっくに二人とも葬れているほどに。

 風晶が本気でなくとも、指示という背景がある限り、乗り越え難い障壁にはなる。それを、何が何でも突破しなければならないのなら、全力を奮わなければなるまい。命を懸けることになってでも。

 引き続き、影の中に核である紀定を探しながら、風刃と金棒で苦無に応戦する鬼。月下、蒼炎が退場した屋根上の舞台で、影と風が踊る。


 その舞台袖――鬼の知らない死角のさらに裏、芳親の足元で、音もなく開く花があった。

 青鷺を叩き落とした、吹雪と散った百花の名残。巨大な城壁として展開されたその欠片は、叩きつけられた暴風をまだ覚えている、保存している。芳親は休息を挟みながらも、確実に布石を打っていた。

 詠唱は不要。ただ、間隙をい上げる、その瞬間を狙い定める。果たして刹那は生じた。もたらされた。瀬戸際で舞踏を演じながら、鬼を引き寄せた紀定によって。


 不動のまま、扉を守っていた風晶が、かがむ。一波二波と襲来していた苦無の法則が変じ、複数の群れを成した苦無が鬼を囲い、一気に襲い掛かったのだ。金棒と風刃で対応できないことはないが、風晶はより効率のいい選択を取る。苦無の切っ先が向かない下方へ、屈むことでの回避を。

 撹乱が目的という前提がある以上、仮に苦無が設置されていたとしても、大した威力はない。群れを成して飛んできた苦無をさばききってしまうより、あったとすれば乾坤一擲けんこんいってきを狙うだろう、少数の伏兵を迎え撃つ方が消耗も少ない。

 だからこその、回避の一手。だが、それは道の始まり。針先で開けたが如きでも、穴が空いたことに変わりはない。


 鬼めがけて集う苦無が、。既にかわす姿勢を取っていた風晶は、止まれない。開けた軌道に一直線、牡丹の道が咲き誇った。

 道が開き作られていくのとほぼ同時、開花の前線を追尾して、芳親は一陣の突風となる。その勢いを生んだのは、足裏で開花するとともに、受けた暴風の威力を吐き出した牡丹。

 咲き示された花の軌道。他者の術を御し身を守る軌条。爆風を用いて一矢となった芳親は、飛び散る花びらと白銀の残像を置き去りにして、花楼内部へと吸い込まれた。


 さすがの風晶も、芳親が何をしたのか把握できないまま、閉扉へいひの動きと音を捉えていた。開く時とは違いながらも、盛大なのは変わらないそれが、決着を刻むあかつきの鐘。


「……何ともまあ、奇抜なことをしてくれたものだな」


 呆然と、しばらく動きを停止していた風晶は、理解するとともに言葉をこぼした。誰も拾わないと思われた言葉は、ただ一人に聞き届いている。とっくにやんだ苦無の襲撃、その仕掛け人に。芳親がいた場所へ、ようやっと姿を現わした紀定に。


「開けた時に、術で強化した糸でも仕込んでいたか。それを内部から引けば、扉も閉められよう」


 振り返りながら問う風晶に、片手をついた紀定は答えない。答えられるような状態ではなかった。戻ってきた自己の把握に追われていたために。

 もう片方の手で顔を覆いながら、紀定は己を形成していた欠片を、一つずつ当てめていく。自分は何か、誰か。見失えば、暗闇に呑まれてしまう。


色護衆しきごしゅう上部との契約には、お前たちの命を保証することも含まれていた。お前たちが乗り越えられず危篤になれば、助けることになってもいた。よって、もう危害を加えることはない。むしろ、私がこの後にやることと言えば保護だ。発狂となると雷雅の世話になる可能性が出てくるから、何とか持ち直してくれ」


 滔々とうとうと流れていく説明が利いたのか、紀定は大きく深呼吸をした。ゆっくりと歩み寄る風晶は、もう金棒を携えていない。


「喜びの享受も、発露もままならなくなったことに加え、怨敵の眷属けんぞくと化した身だが。貴殿らの戦いぶりには胸が空いた。命の危機とも瀬戸際で戦いながら、勝敗に固執することなく、突破という目的を果たしてみせた所業。賞賛に値する」

「……それは、どうも」


 喉が震え、発された声も自分のものだと確かめながら、紀定は顔を上げた。風晶は不用意に距離を縮め切ることなく、間合いを保った場所に腰を下ろしていた。


「さて、ここで言うのも心苦しいが。お前たちの目的にあるだろうもう一つ、直武の所在も教えておこう。あれは、ここにはいない。我々が忘花楼ぼうかろうへ来るのと入れ替わりに、別の、安全な場所へ隔離された」

「……ご無事では、あるのですね」

「ああ。もっとも、呪詛持ちである以上、直武に危害を与える愚者などいない。そもそも、利毒は直武の容態を診るよう依頼されていたというし、呪詛を利用するにも、いるだけで恩恵があると言っていた。悪いようにはしていない……できるはずもないだろうよ」


 ただ事実を告げる淡白な声が、巡り始めた紀定の頭へ、するりと入り込んでくる。


「隔離場所を変更したのは、育ててきた呪詛の持ち主が目覚めるにあたって、連鎖して直武の呪詛が活発化するのを防ぐためと言っていた。明掛あかけの物の怪を目覚めさせられては、そして呼び寄せられては、たまったものではないからな」


 自我を順調に取り戻しながらも、疲労に逆らえずにぶる頭に、知った名が反響する。海峡に面した土地の名を冠する物の怪は、直武の仇敵。直武の兄姉を殺し、直武に呪詛を残し、そして悪夢をもたらしている。


「事が終われば再会も叶う。休んでおくといい」


 いずれ主と相討ちになる存在への恨みは、簡素なねぎらいの言葉と、蓄積した疲労に追いやられていく。再び大きく吐いた息が、過度に達しそうな情を排してくれた。

 風晶と向き合うことはなく、かといって背を向けることはせず、紀定もまた座り直す。風もなく、無音となった屋根の上。さらに上では、まだ沈まない二つの月が君臨している。見飽きたそれが白日へ変わるようにと、紀定は脳裏に浮かぶ背を押した。銀糸をきらめかせる狩衣に包まれ、ひたむきに駆ける友の背を。

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