結/救
絶糸
「…………利、毒?」
静謐な
鬼の名を呼ぶのは、もう間もなく果てる花の声。利毒は答えず、視線を夜空から花に移した。崩落から守り切り、今は膝上で仰向けになっている花に。
「……わた、し……やり遂げ、た?」
「もちろん。アナタの夢は、他ならぬアナタご自身の手によって叶えられ、実を結びました。おめでとうございます、珠花様」
ぷつりと途切れてしまわないよう、利毒は穏やかな声で応じる。
そ、と。吐息と判別が付かない相槌を打って、少女もまた微笑む。満ち足りた笑みは、面影に幼さを残していた。
「……わたし、の、体……あなた、の、役に、立ち、そう?」
「ええ、そのためにもお守り致しましたからねェ。これまでの記録も大いに役立っておりますから、引き続き活用させていただきます」
そういう約束だったので、少女は笑ったままだった。笑ったまま、目を閉じた。
ゆっくり、ゆっくり。しとしと降り注ぐ雨に溶け、
「――――」
泡が、呼び声を
「あり、が、とう――」
返さなくて、正解だった。零れた音は、自己満足の独り言だったので。
救ってくれたとでも、思っていたのだろうか。鬼は、巣食っていただけなのに。もしそうなら、愚かだけれど、少女は己の暗愚など熟知していた。
かなしくて、あわれで、いたましくて。
「ああ……
葉を見ることなく、独り死の傍らに立つ花は、良くも悪くも一途。漆黒の暗闇でも、己が
アナタは莫迦な花でしたけれど、ワタクシにとっては、一番美しい花だったのです。
観る者なんて邪魔なだけの舞台で、舞い咲き誇った曼珠沙華。その晴れ姿を見られて、ワタクシは満足いたしました。
言葉にする必要はなく、故に、それらは利毒の中で泡となる。瓦礫に埋もれた枯野、夢を成していた望楼の墓で、鬼は死の傍らに寄り添う。夢幻の春も、
柔らかな
最後の花も舞台を降りて、無色無音の幕が下りる。忘れられぬと傷ついて、忘れるなかれと傷つけて、
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