第15話

お上は、更衣の女房にも大変好感をお抱きになり、それは、日を増すにつれて、更衣にお傾けになる慕情とともに深まってゆくばかりであったのである。


そして、それもこれも、更衣の生来、また、長ずるにつれて備わった気立ての円(まろ)やかさ、かつ、人徳のなせるところであるとお考えを巡らされて、時として、三者を一体的にもお取り遊ばすのであった。


のちに、お上はかくも思われた。


“自分も、更衣の女房衆の一人として、あの輪の中にずっといてみたい気もする。”


お上と更衣との初めてのご引見が恙(つつが)なく、いや、大変目出たく終了したその日、お上は、昼間のことを思い出しては、まんじりともできない一人寝の夜を明かされたのであった。


“思えば、彼女は、奥ゆかしさにおいて、ほかの女性(にょしょう)に決して引けをとらない中にあって、見事に忌憚のない語り口を、初めての引見でこの私に向けたものであった。”


これを顧みて、彼女以外の女性が自分に差し出すところの奥ゆかしさとは、全く実(じつ)のないものであったことが、お上には知れたといっても過言ではなかった。


“更衣は、自分に心を寄せている。


これは、一種の大胆さである。”


お上は、その気持ちを嘉(よみ)し、更衣が自分に対して“信頼の情”を明かしたことを、非常にありがたく受け取った。


その上で、更衣と自分とは“生まれる前から出会うべき運命であった”と、邪推はしまいが、かえって、そのものの捉え方、品性、節度において同じ傾向にあることにつき、非常な新鮮味を覚えることを禁じ得ないお上なのであった。


お上は、更衣に“惚れた”自分に恥じ入った。


“一回りも違う己れが可憐な娘に恋をした。


まるで少年のようである。”


その一方で、自分が、更衣との間に儲けるであろう御子の父であるべきことを、今から思っては、ご自分の威厳を改めて自負される面持ちのお上であって、“更衣から、敬意の念を十全に払われるような自分でなければならない”、と強く思われるのであった。


端的には、彼女を心情的に決して痛め付けるようなことはすまじ、とお上は念じられた。


お上と更衣との初めてのご引見ののち、暫くあって、お二人は、晴れてご夫婦になられた。

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