第4話
「時に、貴殿、お子は。」
「二人ばかり、小さいのがございます。」
「そうですか。お見受けする限り、男盛りのようではありますが、血気に長けた少壮者(しょうそうもの)というのでもありますまい。非常に落ち着き払っておられます。何分、かようなるお務め、大変名誉なことではございますが、初めてのお方には、その…、面食らうことも多いかと、そのような折には、どうぞ忌憚なく私をお頼り下さいませ。可能な限りお戸惑いにお応え致しましょう。」
家春は、これに応えた。
「深甚なるご配慮痛み入ってございます。」
平侍従は話しを続けた。
「大体において、かようなるお務め、年端(としは)の行かぬ者になど酷でありましょう。
そうは思われませぬか。」
家春は、短く応じた。
「いえ、まあ。」
すると、平侍従は、にわかに語気を強めて、こう言った。
「それがでございますよ。女というものは、年若くあろうと、初めの内はまさに身の置きどころもないといった風情なのでありますが、その内、どこ吹く風といったように、お務めを毎度毎度果たしていくのでございますよ。第一、女官というものは“清い”のが前提であって、お手付きでない限り…。」
一方的にまくし立てていた平侍従は、ふと家春を見て、驚いた。
耳の辺りが、うっすらと赤くなっていたのである。
この件で、平侍従は、家春を値踏み、そして、験(ため)しみるつもりはなかった。
もともと自分の関心の薄い話題で、家春が、図らずも反応したこと自体は、然(さ)まで、彼の旨味にはなり得なかったものの、それで、家春の鎧具足(よろいぐそく)を一つはずしたことには、平侍従は大変な満足感をこの時味わったのである。
平侍従は、このことをもうそれ以上深化させることを避けた。
のちのために、種火はじっくりと取って置きたかったのである。
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