第17話 誕生日会前日(2)

僕は今、渚さんの誕生日プレゼントを買うためにショッピングモールに来ている――

――はずだった。


しかし、何故か僕は今、プレゼントを渡す相手である渚さんと行動を共にしているのだ。


「楓ちゃん、どこにいるんだろね」

「ほ、ほんとですね。世話の焼ける妹ですよ」


すまない、楓よ。こう言うしかないのだ。

そんな事を考えていた僕だったが、ふとした時にある事を思いついた。

『渚さんにしれっと、何が欲しいか聞いてみればいいのでは?』と。

僕はさっそく、渚さんに話題を振る。


「な、渚さん?」

「ん?どうしたの光来君」

「あの、えっと……」


これじゃ逆に怪しまれてしまう。スパッと聞くんだ。


「渚さんは今欲しいものとかあるんですか?」

「欲しいもの?」

「はい」


良し。何とか聞くことが出来た。


「今は特にないかな~。こないだある程度買っちゃったし」

「あ、そうなんですね……」


僕は撃沈した。


ちなみに、渚さんがいつも買い物をしている場所は、今いるショッピングモールなどではない。何せ、幽霊故に姿が見えない為、現世では買い物は出来ないのだ。

なので、意識だけを霊界へと移動させ、霊界にある商業施設で買い物をしているらしい。

霊界の商業施設は、現世の商業施設と全く同じらしく、現世で下見をし、霊界で買い物をするというのがいつもの流れらしい。


霊界で扱っているものなどが現世と全く同じという事は、霊界でも暮らしている人が多くいるのだろう。

霊界は、あまりいい場所ではないというイメージが強いかもしれないけれど、もしかすると、思っているほど悪い場所でも無いのかもしれない。


まぁ、幽霊にならなければ分からない事だけれど。


とそんな事は置いておいて、僕は今、渚さんの欲しいものを聞いたけれど『無い』と言われ、あえなく撃沈したのであった。


「なんでそんなこと聞くの?」

「い、いや何となくです……」


きっと怪しまれているだろう。それか、すでにバレているかもしれない。


「あ、でもね。欲しいものは無いけど、してほしい事ならあるよ?」

やはりバレていた。

「し、してほしい事ですか?」

「うん。してほしい事」

「………」

「………」


一時の沈黙した時間が流れる。

渚さんは、勿体ぶってなのかしてほしい事を教えてくれない。

焦らされているのだろうか。秘密にされているのだろうか。


何故教えてくれないのだろうか。


「でも、それは叶わないんだ。絶対……」


教えてくれないのではない。言えなかったのだ。

ただただ、言えなかっただけなのだ。 


してほしい事が一体何なのかは分からないけれど、きっと渚さんが幽霊である事が足かせとなっているのだろう。


彼女に自由は無い。自由は訪れない。


「渚さん、そんな事ないです。人生何が起こるか分からないんですよ?諦めるのはまだ早いと思いますよ」

「光来君………」


僕はすべてを背負う。渚さんのすべてを。

今後どんな結末が待っていようと、僕は彼女と一緒に居る。


「あ、僕そろそろ時間なんでこの辺で失礼しますね」

「わかった。今日はありがとう」

「こちらこそ楽しかったです」


僕は、渚さんと別れ楓たちの元へと向かった。

1つのお店に寄ってから。


「いらっしゃいませ!」

「あの、これください」

「あ、ありがとうございます」


僕が何を買ったのかは、渚さんの誕生日当日までお楽しみだ。


「すまん、遅くなった」

「遅い。どこで何してたの?もしかして、渚さんと言う彼女がいながら他の女と遊んでたんじゃないでしょね?」

「そ、そんな訳ないだろ?それに、ほら。ちゃんとプレゼントも買ってるし」

「まぁ、何もないならいいんだけどね」


何とか変な誤解はされずに済んだ。


「そういえば、小雪ちゃんは明日の誕生日会は来れるの?」

「今のところ大丈夫です」


今のところ……。


小雪ちゃんは、今週のどこかで親が来るらしいのだ。

全く詳細は伝えられておらず、今週のどこかで来る事しか分からないらしい。

明日来るかもしれないし、週末に来るかもしれない。

その日になってみないと分からないのだ。


「まぁ、また連絡してくれよ」

「は~い」


小雪ちゃんの親が何の為に来るのかは分からないけれど、少し嫌な気はした。

僕に関する事で来る気がしたからだ。


「それじゃ、明日の10時に!」

「じゃあ!」

「は~い」


僕たちは分かれ、自分の家へと帰宅した。


「お兄ちゃん、小雪ちゃんの事なんだけど……」

すると楓が、急に話し掛けてくる。

「ん?小雪ちゃんがどうしたんだ?」

「小雪ちゃんの親、お兄ちゃんに会いに来るんじゃないの?」

「……………」


楓も同じ事を考えていたらしい。小雪ちゃん親が、小雪ちゃんにではなく、婚約相手である僕に会いに来るのではと。

血は繋がっていない物の、さすがは兄妹。思考は同じである。


「僕もそんな気はした。それに、もしかしたら――」



8月15日。渚さんの誕生日当日。

真夏日にもかかわらず、季節外れの雪が全国で降り注いでいた。


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