第16話 誕生日会前日。

楓との事があってから2日が経ち、渚さんの誕生日前日。

僕は、サクラと小雪ちゃん、そして楓と一緒にプレゼント選びに来ていた。


「光来は何買うの?」

「全く決まってないんだよな……」

「はぁ~。それでも彼氏か!こそっり何が欲しいのかとか聞いとかないと」

「その手があったか!」

「いや、もう遅いけどね」


恋愛初心者からすれば、誕生日というイベントは非常に難しい。

世の中の人は、豪華なものをプレゼントしたり、サプライズやらなんやらするのかもしれないけれど、僕は誰の誕生日も祝った事が無い故に、サプライズのやり方もわからないし、プレゼントに何を買ったらいいのかも全く分からないのだ。

そんな僕が、事前に何が欲しいのかリサーチする事なんか出来るわけがないのだ。


「みんなは何あげるんだよ」

「それは秘密!」


何故秘密にする必要があるのか、僕にはさっぱり理解が出来なかった。


世間一般的には女性にプレゼントする物とすれば、アクセサリーやコスメ、バッグや財布と言ったものが多いだろう。

しかし、ブランドがありすぎる故に、男がその中から決めるのはとても難しい。


「はぁ、何がいいのかな……」

「気持ちがこもっていればいいんじゃない?貰ったものが何とかじゃなくて、大事なのは気持ちだと思うよ」

「楓……」

「う、うちもそう思います。まぁ、うちのライバルのプレゼントなんて何でもいいと思いますけどね」

「小雪ちゃん……」


何をプレゼントするかではない。選び、プレゼントする物に気持ちが、想いが詰まっていればいいのだ。


「俺、1人で見てくるわ」

「は~い」


僕はみんなと別れ、1人でお店を回った。


「勢いよく出てきたはいいものの、やっぱり何がいいのか分からないな……」

「光来君?」

すると、僕の後ろから聞き覚えのある声が聞こえてくる。

「?!渚さん?」

僕の後ろにいたのは渚さんだった。

サプライズでプレゼントを渡す事は、決して気づかれてはいけない。

絶対に。


「そんなに驚かなくても……。こんな所で何してるの?」

「あ、えっと、楓の買い物の手伝いで。渚さんこそ何してるんですか?」

「私はちょっと必要なものを買いに来たの」

「そ、そうだったんですね。じゃあ、僕はこれで」


僕は悟られないようにと、すぐさまこの場を去ろうとした。

しかし――


「一緒に回ろうよ!」

「え?!」


まさかの展開だ。これではプレゼントを選んでいる暇がない。と言うより、物理的に不可能だ。


「そういえば楓ちゃんは?」

「あ、なんか買いたい物があるからって別行動になったんですよ」

「そうだったんだ。じゃあ、楓ちゃんも探しつつお店回ろっか」

「は、はい」


断る事は出来なかった。何故なら、僕はイエスマンだからだ。渚さんにだけ。


僕と渚さんは、楓を探しつつ、ショッピングモールに入っているお店を見て回る。

ただ、楓を探しつつとは言ったが、実際、楓の事を見つけてしまうのは良くない。

何故なら今楓は、サクラと小雪ちゃんといる。そんな所に出くわしでもしたら、サプライズが台無しになってしまうかもしれない。

それだけは何とかして避けなければいけない。


「あ、あの。渚さんは何を買いに来たんですか?」

「ちょっとメッセージカードをね」

「メッセージカード?」


僕は何故メッセージカードと思ったが、ここはあえて聞かなかった。


「あ、ここのお店寄ってもいい?」

「はい」


そのお店は、今では世界中に店舗があるロホトだった。

ロホトは、文具、雑貨、コスメ、ちょっとした家電などが置いてある、超人気店だ。


「これ、渚さんに似合いそうじゃない?」

「ほんとですね!似合いそうですね!」

「え、でもこれなんかもいいんじゃない?」

「確かに!!」


なんだか聞き覚えのある声が聞こえてくるような……。

「?!」


僕の目線の先には、楓たちがいた。まさか、ロホトで買い物をしているなんて……。

正直この状況……非常にまずい。


「な、渚さん。このお店後でもいいですか?楓が呼んでて……」

「あ、そうなの?わかった。楓ちゃんのところ行こ」


何とか渚さんを楓たちから引き離すことが出来た。

しかし、楓の所に行くと言ったが、実際今向かっているの所には誰もいない。

なんと言い訳をしよう。僕の頭はその事でいっぱいだった。


「ここ?楓ちゃんいないよ?」

「あ、あれ?おかしいな。ここにいるって言ってたのに……」

「いないなら、もう一回探しながら回ろっか」

「そ、そうですね」


何とか切り抜ける事が出来た。しかし、油断はできない。これだけ広いショッピングモールでも、さっきみたいに偶然出会う事も無い訳ではない。

ここからさらに警戒していかなければならない。


そんな事ばかり考えている僕だけれど、実際の目的をすっかり忘れ、誕生日プレゼントを買いに来てから、何もせず2時間が経とうとしているのだった。


僕よ、本来の目的を忘れてはいけないぞ。しっかりするんだ。







  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る