第15話 妹の恋路。

恋バナ暴露会の翌日、僕は楓とうまく話す事が出来なくなっていた。

いや、出来なくなっていたのではないかもしれない。楓の事を意識して、上手く話せないのだろう。


「……ちゃん?お兄ちゃん?聞いてる?」

「あ、すまんすまん。少し考え事をしてた」

「考え事?なに、なに。悩み事でもあるの?」

「あるわけないだろ?」

「そうだよね。お兄ちゃんなんだし」


それはどういう意味だ。それに、悩まされているのはお前のせいだぞ春野楓よ。

と僕は心の中でツッコんだ。


「今日はどこか出かけないの?」

「今のところ予定は無いな」

「そっか……」

「どうした?なんか変だぞ?」


何故だか、楓の顔が少しほてっているようにも見えた。


「ううん。何でもない」

「ならいいんだけど」

「じゃあ、私は自分の部屋に戻るね」

「おう」

そう言って楓は椅子から立ち上がり、自分の部屋へ向かおうとする。


フラッ。


「あれ?」


バタッ。


「楓!楓~~~」


医者に行ったところ、大きな病気ではなく、ただの夏風邪だった。

ただ、楓は昔から喘息持ちで、風邪をひくと人より何倍もしんどくなるのだ。

今回も同様で、ただの夏風邪なのにも関わらず、熱は40°を超え、過呼吸気味になっていた。


「ん……。私……」

「目覚めたか?」

「お兄ちゃん……」


安静に寝かせてから3時間が経った頃、楓が目を覚ました。


「夏風邪だってよ。2、3日安静にした方がいいらしい」

「ありがとうお兄ちゃん」

「いいんだよ。こういうのは兄の務めなんだし」


なんだか変な感じだ。兄妹なのに変な感じだ。

意識してしまっているのだろう。無意識に。

それに、弱った楓はなんだかずるい。ほっておけなくなる。

禁断の恋。

そんな事にはならないけれど、楓の気持ちを無碍にするのは心が痛い。

どうすればいいのだろうか。どうすれば、楓を傷つけずに済むのだろうか。

僕はそのことばかりを考えていた。


「お兄ちゃん、また顔怖くなってるよ」

「すまん。考え事を……」

「いいの。お兄ちゃん聞いてたんだよね、私が言った事」

「?!」


楓は知っていた。あの時僕が起きていた事を。そして、知ったうえで、僕の反応を見ていたのだ。


「な、何のことかさっぱり……」

「もういいよ隠さなくて。私はお兄ちゃんが好きなの。これは本当。私の本当の気持ち」


ずるい。弱っている中でそれを言われると、強く言い返せない。

むしろ言葉を選んでしまう。


「お兄ちゃん、知ってた?私たち血が繋がってないんだって」

「え?!」


衝撃の告白だった。僕と楓は血が繋がっていない?

そんな筈はない。僕は、楓が生まれた時からずっと傍に居た。

血が繋がっていない訳がない。


「お兄ちゃんに本当の妹がいたのは事実。でも、その子は生まれる時に命を落としたの。そんな時、知り合いの子供を引き取り、育てることになったんだって」

「まさか……」

「そう。その子供が私。だから、血は繋がってないの」

「…………」


思考が追い付かない。次々に襲い掛かってくる情報で、僕の頭はパンク寸前だ。

受け流す事は簡単でも、受け入れることは難しい。

それでも、受け流すことは出来ない。受け入れなければいけないのだ。


「ごめんね、騙す形になってしまって……」

「正直、すぐに受け入れろと言われると無理だけど、僕の妹は楓しかいない。命を落とした子も僕の妹だけれど、今ここにいるのは楓だ」

「お兄ちゃん………」


受け入れるのは難しい。けれど、少しずつ歩み寄る事なら出来る。

兄妹という関係が崩れたとしても、もう一度歩み寄り、一から築き上げていけばいい。

人はそうやって生きていくのだから。


「楓、僕も楓の事がだ。でも、それは妹として、家族としてのだ。だから楓の気持ちに応える事は出来ない。それに、僕には大切な人がいるから」

「フフッ。お兄ちゃんらしいや。お兄ちゃんならきっと、渚さんを幸せにできる。きっと」

「ありがとう」


楓に返す返事があれでよかったのかは分からないけれど、あれが僕の中で、一番平和に終われる返事だった。


楓との関係は少し複雑だけれど、今までと変わる事は無い。どこにでもいる普通の兄妹だ。

少し、好意を寄せられてはいるものの、普通の兄妹だ。


「お兄ちゃん、今日は私と一緒に寝てね」

「な、なんで一緒に寝るんだよ!」

「体調不良の妹を一人で寝かせるつもり?それに、さっきお兄ちゃん「こういうのは兄の務めだしな」って言わなかったっけ?」

「くっ……」


さすがは我が妹。体調を崩していても抜かりない。


「今日だけだぞ。明日からは一人で寝る事。いいな?」

「は~い」


僕と楓。血は繋がっていないけれど、それ以上に硬い絆で結ばれている。

今後どんな事が起こっても、一緒に乗り越える事が出来るくらいの硬い絆で。


そして、僕の長くも短い夏休みは、ついに終盤へと突入していくのだ。









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