第14話 お泊り会

【話せ!人生の恋バナ暴露!】

楓が勝手に決めたテーマではあるが、渚さんやサクラはとても乗り気だった。

それもそのはず。女は恋バナが大好きだからだ。

まぁ、僕の偏見なのだけれど。

とは言ったものの、渚さんの恋バナを聞けるというので、僕も少しワクワクしている。


「それじゃあ、サクラ姉からいこう!」

「え、私から?そこは言い出しっぺの楓ちゃんからでしょ」

「ノン、ノン、ノン。私は司会進行役。すなわち、私が恋バナを話すことは無い!」

「…………」


場に少しの沈黙が流れる。


「よし、皆納得いってないみたいだから僕が司会進行役をする」

「うん、それがいいと思う」

「私もそう思う」

「なんでよ!私が司会したかったのに!」

「お前は、他人の恋バナを聞いてウハウハしたかっただけだろ!」


楓は目線を逸らし、勝ってきたジュースを一気に飲み干した。

図星だったらしい。


「よし、じゃあ最初は楓からだな」

「なんで私からなのよ!まだ話す準備が出来てないっての」

「なんだよ話す準備って。はぁ、じゃあサクラから頼むわ」

「しょうがないわね」


そう言ってサクラは、少し姿勢を正し話始める。


「私一回しか恋した事無いんだ。しかも最近の事。昔から知ってはいるんだけど、ただの友達っていうか幼馴染みたいな感じで、全く好きって気持ちは無かったの。でも、最近になって好きって気持ちが芽生え始めて、この人とずっと一緒に居たいって思い始めたの。でも、その人には彼女がいる。だから、未だに気持ちを打ち明ける事ので聞いていない片想いなんだよね」


「…………」

「…………」

「…………」


何故かは分からないけれど、沈黙の時間が流れた。


「あ、あれ?思ってた反応と違うな」

「あ、いや、なんか思ってた以上に詳しかったから、ちょっとびっくりしちゃってさ」


思いのほか詳しく話してくれたおかげで、うまくリアクションが取れなかったのだ。こんな感じで話が進んでいくのなら、この後も反応することは困難だろう。


「サクラ姉って意外に恋愛経験ないんだね」

「そうなんだよね。あんまり人の事を好きになる事が無かったからさ。というより、好きって気持ちが分からなかったんだと思う」

「恋愛ってそんなものなんじゃないかな?人を好きになるのは一瞬って言うしさ」


その言葉はあっているのだろうか。確かにそういう言葉は存在するけれど、なんだか違う気がする。

渚さんはやはり、どこか抜けている。


「じゃあ、楓。もう準備出来ただろ?」

「わかった!私の恋バナするね」


楓もサクラ同様、少し姿勢を直し話始める。

「私の恋バナは、小学校の頃の話。小学3年の時、1人の男子に命を救ってもらったの。でもその当時は、名前もクラスも分からなかった。でも、中学3年の春、誰が私の命を救ってくれたのか分かったの。その人は――」


ピンポーン。


「ん?だれだ?」

僕は、1階へと降り、玄関の扉を開けた。

「光来君!うちを泊めてください!」

「は?!」


僕の家に再び嵐がやってきた。


「こんばんは、小雪です」

「光来、この子は?」

「自称僕の許嫁……」

「許嫁?!」


その反応は正しい。誰が聞いてもその反応をするだろう。


「許嫁って結婚する人たちの事だよね?え、光来は小雪ちゃんと結婚するの?」

「するわけないだろ!僕には渚さんと言う心に決めた人がいるんだから」

「光来君……」


あ、そういえばこの場に渚さんもいるんだった。とてつもなく恥ずかしい。


「光来君。まだあの幽霊の事が好きなんですか?いずれ分かれないといけないんですよ?それを知りながら尚、付き合い続ける光来君の気がしれません。うちと結婚すれば、悲しい想いをする事は無いんですよ?」

「小雪ちゃんが言う事は正しいと思う。なんで幽霊と付き合ってるんだって思われても仕方ない。でも、僕は自分の気持ちに嘘はつきたくない。嫌いになってもいないのに別れたりするのは嫌だ。僕は、渚さんと一緒に居るって決めたんだ。これからどんな未来が待っていようとも」


何故だか、司会進行である僕の恋バナがいつの間にか始まり、終わっていた。

そして、左手を見て見ると、顔を真っ赤にした渚さんが座っていた。


「よし、恋バナの続きをするぞ」

「恋バナ?」

「そう。今回のお泊り会のテーマは恋バナらしいから、1人ずつ恋バナをしてるんだ」

「なら、次はうちが話します!うちの恋バナは光来君のお話です!」


これは、なんとなくわかる長くなる奴である。


「うちが光来君の事を好きになったきっかけは――」


案の定、小雪ちゃんの話は1時間半にも及び、皆半目になりながら話を聞いていた。

僕は、目を開けながら寝る事が出来るので、ほぼ眠っていた。



「じゃあ、最後は渚さん」

「私の恋バナは………無いの」

「無い?そんなわけないでしょ。恋愛の1つや2つあるでしょ!」

「それが、全くないの」


渚さんの記憶に、これまでの恋愛の記憶が無い理由は簡単だ。

この夏の期間に起こる恋愛に集中するために、過去の恋愛の記憶は消されているのだろう。

誰がそんな事をしているのか分からないけれど、たぶんそうだ。


「ごめんなさい。なにも無くて」

「渚さんが謝る事じゃないですよ。よし、今回の恋バナはお開き。各自風呂に入り就寝する事」

「は~い」


少し重たい空気で終わった恋バナ暴露会。

僕は今後一切、こんな会は開くべきではないと思ったのであった。


暴露会から数時間が経ち、何故かは分からないけれど、皆僕の部屋で川の字になって寝る事になっていた。


「それじゃ、お休み」

「お休み~」


僕は物の数分で眠りについた。


「私はお兄ちゃんの事、本当に好きなんだけどな……」

「?!」


今の声は楓?!いや、僕の事をお兄ちゃんと呼ぶのは楓しかいない。

僕の事が、好き?

僕の聞き間違い?!


この展開は予想していなかった。

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