第12話 妹と兄。

先日の話し合いから数日が経ち、僕は楓とテーマパークへ来ていた。

何故かというと、楓とデートをするという約束をしてしまったからだ。


数時間前。

「お兄ちゃん?準備できた?」

「まだだ」

「早くしてよ!混んじゃうよ?」

「お前が早すぎるんだよ!何時だと思ってるんだ」

「ん?朝の5時」


バカだ。

いくら何でも5時は早すぎる。超人気テーマパークとはいえ、朝の5時から行く人はいないだろう。

僕の妹以外は……。


「さすがに早すぎるだろ」

「そんな事ないもん!ほら!もう100人は並んでるみたいだし」


妹以外にもバカがいた。

しかも100人も。

「はぁ……」

ため息しか出てこない。


「ほら!ため息なんかついてないで早く準備して!」

「わかった、わかった」


僕は起きていない脳を使い、服装を考え、支度を進めた。


「さあ!行くぞ、夢の国!」

「それ、ダメでしょ」


そして今に至る。


「本当に並んでる……」

「もう300人は並んでるみたいだよ?」

「この短時間で200人も……」


バカは100人だけではなかったようだ。

それに、僕もそのバカの仲間入りだ。


「開園まで1時間あるけどどうする?」

「寝る」

「え~~~?それじゃ私つまんないじゃん!」

「いや、お前も寝ればいいだろ」

「嫌だ!そうだ!トランプしようよ」


何故テーマパークにトランプ?と思ったが、僕はツッコまなかった。何せ、眠さで頭が働いていないのだ。ツッコむ事も容易ではない。


「何するんだ?」

「ん~ババ抜き!」


僕の妹は、こんなにバカだったのだろうか。もう少し賢いと思っていたのだけれど、それは僕の勘違いだったようだ。

だって、2人でババ抜きをしようなどと言い出すのだから。


まぁ、バカバカ言ってはいるけれど、僕は妹には甘いのでババ抜きすることにした。


「そう言えば、なんであの時の条件が僕とのデートだったんだ?」

「ん~。特に理由は無い」

「あ、そうなんだ……」


僕は少し落ち込んだ。

兄妹とは言え、お兄ちゃんと出掛けたかったと言われれば、僕的にも嬉しいのだ。


「ババ抜き飽きた」

「いや、お前が持って来たんだろ!」

「仕方ないじゃん、待ち時間退屈だと思ったんだから……」


確かに時間潰しにはなるけれど、テーマパークの待ち時間にトランプは、やはり無しだ。しかも2人の時なんて尚更だ。


「お兄ちゃんの恋バナ聞かせてよ!」

「は?」


僕の恋バナ?これまでの人生で恋愛というモノをしてこず、つい最近、幽霊に恋をした男の恋バナなど聞いて何が楽しいというのだ。

僕には全く分からない。


「渚さん?とのこと聞かせてよ!」

「嫌だ」

「ケチ。私の恋バナも聞かせてあげようと思ったのにな~」

「?!」


それは少し興味がある。いや、少しどころではない。かなりある!


「わかった。恋バナをしよう」

「やった!」


開園30分前、僕と楓の恋バナが始まる。


「お兄ちゃん、渚さんの事何にも教えてくれないから、これを機にいろいろ聞き出しちゃうからね!」

「全てを話すとは言っていない!もちろん、黙秘権も存在するからな!」

「え~~~」


確かに、楓には渚さんの事は黙っていたが、渚さんのプライバシーもある為、話せないことに関しては黙秘権を使わせてもらう。


「じゃあ、お兄ちゃんは渚さんのどこが好きなの?」

「いきなりハードルの高い質問だな……」


渚さんのどこが好きなのかなど、今まで考えた事も無かった。

彼女に魅せられ、見惚れ、恋に落ちたのだから。

どこが好きなのかなど分からない。


「全部かな」

「出た、ダメな奴の典型的な答え」

「なんだよ、ダメな奴って」

「だって、全部とかいう奴の言葉信じられると思う?」

「………」


確かに楓の意見も一理ある。

全部という奴は、その相手をちゃんと見ていないという証拠なのだろう。

すなわち、女性からするとちゃんと私を見て欲しいという事なのだろう。

まぁ、僕は女ではないので分からないけれど。


「まぁ、強いて言うなら透明感かな」

「透明感?」

「そう、透明感」

「意味わかんない」


僕は彼女の透明感に惚れたのだ。何色にでも染まってしまうかのような、あの透明感に。

そんな彼女は今、僕色に染まりつつある。


「おこちゃまにはわかんねーよ」

「おこちゃま扱いするな!来年には高校生になるんだから、立派な大人!」

「高校生なんてまだまだ子供だぞ?僕だってまだ大人じゃないんだから」


大人になるのは簡単ではない。

世の中には20歳を超えたら大人と思っている人も多いと思うが、僕はそうは思わない。

20歳を超えても、子供みたいな奴はわんさかいる。僕もいずれそうなる気がしている。

大人というのは、社会に認められた人の事だと僕は思う。

まぁ、僕の意見なので一概にも断言は出来ないけれど、僕の大人という定義はそこだ。


「次、楓の番だぞ。恋バナ聞かせろよな」

「え!まだ聞きたい事あったのに!」

「わかったよ。次で最後の質問な」

「やった!」


楓は、最後の質問と言われたからか、真剣に考えだす。

恋バナごときで、そんなにも真剣に考える必要があるのだろうか。

僕には一切分からない。

今日は分からない事だらけである。


「じゃあ、渚さんが消えたらどうするの?」

「?!」


思わぬ質問だった。

もっとラフな質問が来るのだと思っていて、整理が追い付かない。

「い、今なんて言った?」

頭の整理が追い付いていない僕は、楓に聞き返した。

「だから、渚さんが消えたらお兄ちゃんはどうするのかって聞いたの」

「それは……」


これまでに考えようとした事はあった。何度も。

渚さんがいなくなったら僕はどうするのか、どうなってしまうのか。

しかし、考える事が出来なかった。考える事が怖かった。


僕の初恋の人。僕の初めての恋人。

人間ではない幽霊の恋人。

そんな彼女が消えた時の事を、考えられる訳がない。


「お兄ちゃんは、あの人と付き合うべきじゃないと思うよ。だから、私と付き合わない?」

「?!」


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