第8話 過去と未来。

小雪ちゃんが姿を消してから数日が経ったある日、僕は渚さんと買い物に出かけていた。


「なんだか、光来君と会うのは久しぶりな気がするね」

「そうですね。前のデートから一回も会ってなかったですもんね」


それもそのはず。渚さんとデートをした日以降、ずっと小雪ちゃんの面倒を見ていたのだから。

隙を見て出かけようとしても、一瞬で捕まり、部屋に連行される。

そんな毎日だった。


「幽霊だからって、ほったらかしにされるのは少し寂しいものがあるんだよ?浮気してるんじゃないかとか考えちゃうし」

ギクッ。

「あはは。僕が浮気なんてする訳ないじゃないですか。あはは」


あれは断じて浮気ではない。浮気ではないはずだ!

確かに、小雪ちゃんは僕の初恋相手ではあるけれど、それは昔の事であり、結婚の約束も子供同士の単なるやり取りであって、断じて浮気になどなる訳がない。

それに、小雪ちゃんが一方的に許嫁と言っているだけで、僕は認めていないのだから!


「まぁ、そんな心配はしてないけどね!」

「そんな心配はいりません!僕は渚さん一筋ですから!」


僕は胸を張って言った。


しかし、嵐は突然やってくる。

何の前触れもなく、突然と。


「光来く~~ん!」

ムギュッ。

腕に当たるこの柔らかい感触、これはまさしくおっぱい!

お世辞でも大きいとは言えないものの、柔らかさは申し分ない。

うん。いいおっぱいだ。


「?!」


って、あれ?今僕の腕にくっついているのは誰だ?見覚えがあるような無いような。

少し前に、僕の家から姿を消した彼女なのでは?僕の許嫁と言い張っていた彼女なのでは?

間違いない。僕の腕に胸を押し当て、くっついているのは冬空小雪だ!


「な、なんで小雪ちゃんがここに?」

「光来君を尾行していたからです!」

なにそれ、ストーカー?怖いんですけど?


「ぼ、僕、今デート中だからさ?また今度にしてくれるかな?」

「デート?光来君ずっとじゃないですか」

「は?」


思わず心の声が漏れてしまった。


デート中なのにも関わらず、ずっと

そんな筈はない。現に、僕の目の前には渚さんがいるのだから。

おめかしをし、いつもながら、透明感の強い存在感を放ちながら、僕の目の前にいるのだから。

何色にでも染まってしまうかのような透明感で。


「いや、冗談だろ?ほら、ここにいるだろ?」

「いいえ。私には見えません。声も、聞こえません。そこには誰もいないし、誰も存在しません。空気ならぬ空間と会話をしている、光来君しかいないんです」


小雪ちゃんが言っている事は、間違っていないのかもしれない。

普通であれば、結婚する相手が、自分とは違う誰かとデートをしていれば、嫉妬や妬みの感情が溢れ出ていてもおかしくない。

しかし、小雪ちゃんが僕の腕にくっついて来た時、そんな感情は全く感じ取れなかった。


僕には見えていて、小雪ちゃんには見えていない。


僕は、心のどこかで分かっていたのかもしれない。気づいていたのかもしれない。

いや、分かっていた。

初めから。

渚さんと出会った、あの日から。


僕にしか見えていない事に。


本当か否かを確かめる為、僕は渚さんの方を見た。

渚さんは、目を合わしてはくれなかった。

疑惑が確信へと変わった。


「少し、話しましょうか」

小雪ちゃんはそう言って、フードコートへと向かった。


水を三つ机に置き、僕は渚さんの隣へ、小雪ちゃんは僕の前に座った。


「単刀直入に聞きますね?光来君には何が見えているんですか?」

小雪ちゃんの質問は、本当に単刀直入だった。

「一人の女性が見えている。夏色渚さんっていう女性が」

僕は、何も隠すことなく、そのままを話した。


小雪ちゃんは、水を口に含んだ後少し黙り込み、口に含んでいた水を飲み込んでから再び話始めた。


「昔、お母様から聞いた話なんですけど『夏の幽霊』って知ってますか?」


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

あとがき。

第8話を読んでくださり、ありがとうございます。

今回は、渚が光来にしか見えていないことが発覚しましたね。

そして、小雪ちゃんから発せられた『夏の幽霊』。

これは、渚さんの事を指すのか。気になりますね。

では、皆様からの応援コメント、♡、辛口、甘口レビューお待ちしております!


次回、夏の幽霊。

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