第7話 過去。

「光来君、一緒にお風呂入りませんか?」

「入るわけないだろ!」


この子は、僕の自称許嫁である小雪ちゃん。

僕が初々しくも初恋をした夏休みに、小さな嵐のように現れ、僕の家に居候しているのだ。


小雪ちゃんの話によると、高校卒業と同時に僕と結婚するらしく、その為の花嫁修業として僕の家に来たらしい。

世の中的には、女の子は16歳で結婚が出来る為、僕が卒業するタイミングで結婚する事は可能なのである。

しかし、僕には彼女がいる。渚さんという彼女が。

夏休みの間だけかもしれないけれど、僕は彼女の事が好きなのだ。

今後どんな事が起ころうとも、その気持ちは揺るがない。決して。


「小雪ちゃんは、いつまでこの家にいるつもりなんだ?」

「いつまでですかね?うちはお母様に言われて来ただけなので。まぁ、一つ言うと、光来君がうちの事を思い出してくれるまでですかね?」

「僕が小雪ちゃんの事を……?」


この何日間、小雪ちゃんと一緒に過ごしはしたものの、未だに、小雪ちゃんと過去に何があったのか思い出せない。と言うよりも、会った事が無いんじゃないかというレベルだ。

親の呼び方から察するに、どこかの令嬢なのかもしれないし、ただ、裕福な家庭で育っただけなのかもしれない。しかし、小さい頃、僕にはそんな友達や知り合いは一人もいなかった。


「わかりました。少しヒントをあげますね。うちと光来君が初めて会ったのは幼稚園の時です。光来君がうちの家に遊びに来てくれたんです。そして、将来結婚する事を誓い合ったんです!」

「すごい急展開で誓い合ったけれど、それって子供の時言った事だろ?本気で言った訳じゃないんじゃ……」

「そんな事は無いです!ちゃんとキッスもしましたから!」

「な、き、キッスを……?」

僕には全く記憶にない。何かの間違いだ。

「お兄ちゃん?どういう事?」

「いや、俺には全く……」

本当に覚えていない。僕が幼稚園の時に北海道に行った覚えも――


一度だけあった。

親と一緒に一度だけ、北海道に行った事があった。

それは突然決まり、誰かの家に挨拶に行くからと言う理由だった。

たぶん、その家が小雪ちゃんの家なのだろう。

少しずつ鮮明になりつつある記憶。小雪ちゃんとの記憶が、どんどん浮かび上がってくる。

それは、消し去りたかった過去の記憶でも、抹消したかった過去の記憶でもない。


それは、ただの初恋の記憶だった。


僕は幼稚園の時、冬空小雪という女の子に恋をしていた。

僕の初恋は、この夏休みではなく、幼稚園の時だったのだ。


「思い出した。全部思い出した」

「やっと思い出してくれたみたいですね!うちの事」

「あぁ。確かに幼稚園の時、北海道で君に会ってる。そして、君に恋をしている」

「うちと光来君は両想いなんです。だからうちは、光来君を迎えに来たんです」

「迎えに?」

「はい。光来君がうちの旦那さんになる為に!」


小雪ちゃんが僕の家に来たのは、花嫁修業の為なんかではない。

僕が誰かのものになる前に、手中に収めてしまおうという考えだろう。


僕にそこまで執着する理由は分からないけれど、何らかの利用価値があるのだろう。

例えば、親の会社を継ぐ人がおらず、仕方なく僕を後継者に迎える為とか。

考えればいくらでも出てくる。

しかし、僕は小雪ちゃんに付いて行く事は出来ないのだ。

何故なら、彼女がいるから。


「小雪ちゃん、僕は君と一緒には行けない」

「ど、どうしてですか?うちの事が好きじゃないからですか?」

「それもあるけれど、僕、今彼女がいるんだ。大切な。だから一緒に北海道には行けない」

「か、彼女が……。そうですか、彼女ですか。わかりました。でしたら、うちにも考えがあります!」


そう言って小雪ちゃんは、急いで家を出ていった。


「本当に嵐みたいな子だね」

「そうだな」


しかし、嵐は急にまた現れる。

今度は、小さな嵐ではなく、大きな嵐となって。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

あとがき。

第7話を読んでくださり、ありがとうございます。

今回では、光来が過去に恋をしていた事が判明しました。

そして、突然姿を消した小雪ちゃんは、今後何をもたらすのか?

次回は、初恋の相手VS今彼が見れるかもしれません!

では、皆様からの応援コメント、♡、辛口、甘口レビューお持ちしております!


次回、過去と未来。

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