第4話 初デート。

8月15日、土曜日。渚さんとのデート前日。

僕は、デートの時に着る服がなかった為、幼馴染のサクラと一緒にショッピングモールに来ていた。


「光来のデート服を、なんで私が決めなくちゃいけないのよ!」

「いや、僕デートとかした事無いから、どんな服着たらいいか分からないし、それに、サクラの方がこういうのに関しては詳しいと思ったから」

「まあ、経験豊富の私にかかれば、一瞬で服なんか決まるけど……ってそんな事はどうだっていい!なんでいきなりデートする事になってんの?」

「いや、僕が告白に対しての返事を渋ったから、交換条件でデートする事になったんだよ」

「こ、告白?!」


サクラは、ショッピングモール全域に聞こえたであろう大きさで叫んだ。

まあ、驚くのも可笑しくはない。

何故なら、大まかな事は説明していたが、渚さんから告白された事は話していなかったのだ。


「いつ、告白されたの!」

「サクラに恋について聞いた日、あっただろ?」

「うん」

「その帰り道に渚さんと会って、公園で話してたら、急に付き合わないかって」


僕はサクラに、包み隠すことなく、その日起こった事をすべて話した。すべてとは言ったものの、渚さんと会った所からなのだけれど。


「先を越されるなんて……」

「ん?今何か言ったか?」

「ううん!何も言ってないよ!さあ、さっさと行くよ!」

「お、おう」


僕には、サクラが何か言ったようにも思えたが、軽く流し、サクラと一緒に館内を回事にした。


渋谷PORUKO。

渋谷PORUKOは、今年に入ってからリニューアルオープンされ、老若男女問わず、人気のあるショッピングモールだ。又、人気ブランドからハイブランド、そして食品売り場まである事から『ここだけで買い物が完結してしまう』という声が多数挙がっているらしい。それが、若い層から年配の方まで、幅広い層から愛される大きな理由なのだろう。

僕は、そんなにもすごいショッピングモールで、たかだかデート服を選ぶためだけに訪れているのだ。


「それで、光来はどんな服を着ればいいと思ってるの?もちろん、ちょっとは考えて来たんだよね?」

「お、おう。もちろん考えて来たとも……」

全く考えてこなかった。いや、考えはしたが、いくら考えたところでいい服装が思い浮かばなかったのだ。

19年間生きてきたにも関わらず、この有様。自分自身が惨めに思えてくる。


「その感じ見ると、考えたけど何も浮かばなかったってところ?」

「………」

サクラさんには、心を読む力でもあるのでしょうか。実は、超能力者だったりするのでしょうか。

僕は、サクラに消す言葉がなく、頭の中で自問自答を繰り広げていた。


「サクラの言う通りで、全く思い浮かばなかったんだ。生まれてこの方お洒落なんて物して来なかったから……」

「よし!じゃあ、まずは私の買い物から始めよう!」

「えっ?」


何故かは分からないが、僕の買い物ではなく、サクラの買い物が始まった。

僕は、サクラが何を言っているのか理解するのに、数分かかった。

しかし、どうこうするでもなく、反論するでもなく、僕はサクラの買い物に付き合った。何か理由があるのだと信じて。


「はぁ、いっぱい見た~」

結論から言おう。サクラの買い物を先に行った事に、なんの意図も、なんの理由も無かった。サクラが、ただただ、自分自身の欲求を満たすためだけの時間にすぎなかった。そう、僕には無関係の買い物だった。


「おい、待て。俺の買い物はどうした!お前の買い物になってんじゃねーか!」

「あ、すっかり忘れてた。でも、女の子って、自分の事になっちゃうと周りが見えなくなるから、仕方ないよ!」


僕は、女という生き物が嫌いになりそうだ。

それからは、まじめに僕のデート服を選ぶため、男物を扱う服屋さんを回った。

男物は、女物ほど種類がある訳ではないけれど、昔に比べれば選択肢の幅は広がっているだろう。

それ故に、僕はいろいろな服を試着し、吟味した。


「やっと終わった。光来の服決めるのに3時間も掛かるとは思わなかったよ」

「だって、全部一緒にしか見えねーんだもん。選ぼうにも選べないんだよ」


確かに、昔と比べれば、選択肢の幅は広がったのかもしれない。しかし、それはお洒落を普段からしている人に限った話なのだ。

何故なら、お洒落に無頓着だった僕が、いきなりいろいろな服を見たところで、それらの違いを見出すことなど不可能に近いからである。

故に、僕には全ての服が全く一緒に見えてしまうのだ。


「今日はありがとう。助かった」

「この埋め合わせはいつかしてもらうからね!」

「わかったよ」


結局、自分では決める事は出来ず、サクラに決めてもらった。

どんな服を買ったのかは、後のお楽しみだ。


そして、渚さんとのデートの日。8月16日を迎える。

「楓?出掛けるから留守番頼むな?」

「お兄ちゃん出掛けるの?カツアゲされないように気を付けてね!」

「そんな心配の仕方あるかよ……」


僕は、独り言をブツブツと呟きながら、渚さんとの待ち合わせ場所へ向かった。

ちなみに、どんな服装かと言うと、今年のトレンドでもある、セットアップスタイルを選んだ。正確には選んでもらった。

上は、中にTシャツを着、上からリラックスサマージャケットを羽織っている。

そして、揃いのワイドテーパードパンツで合わせ、セットアップスタイルにしてあるのだ。

まぁ、すべてサクラが言っていた事を、そのまま言っているだけなのだけれど。


「あ、光来君!お待たせ!」

「………」


僕の口は、開いたまま塞がらない。

目の前に現れた、夏色渚と言う女の子を見て、塞がらない。

真っ白なワンピースに、麦わら帽子。まるで、アニメの世界に入り込んでしまったかの様な感覚に陥った。


「光来君?」

「あ、すみません。ちょっと見とれてしまって……」


「あはは。光来君、可愛い」

「か、可愛くないですよ……」


この人といると、自然と世界がカラフルに染まっていく。

何色にも染まり、何色にでも染めてしまう。


そんな彼女は、世界一美しい。



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


あとがき。

第4話を読んでくださった皆さん、本当にありがとうございました。

初デート編は、パート2に続きます!

光来の初デートは、順調に進むのか。楽しみですね!

そして、近日、2作目となる「君が見ている世界は何色ですか?」を投稿予定です!

是非、そちらもチェックしてみてください!

では、皆様の応援コメント、辛口、甘口レビュー心よりお待ちしております!


次回、初デート(2)













  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る