第3話 夏色渚。
「光来君は、今、好きな人とかいる?」
この状況、把握しきれていない人がほとんどであろう。僕も、その一人だ。
急に、目の前にいる女の子から「好きな人いる?」など聞かれたら、混乱する。しない訳がない。
ということで、少し状況を整理をしようと思う。
話は数時間前に遡り、俺が買い物の帰り道、渚さんと出会った所からである。
「少し、あるこっか」
「え、今からですか?」
「今から以外に何があるの!さあ、行くよ!」
渚さんはそう言って、僕の手を引き、走り出した。
その後ろ姿は、どこか悲しげで、泣いているようにも見えた。
そんな渚さんに連れて来られたのは、ある公園だった。
あるなどと、意味深な表現をしているが、ごく普通の公演だ。
「ここ、私のお気に入りの場所なんだ」
「でもここ、ただの公園ですよね?なんでこんな所がお気に入りなんですか?」
「光来君は、ロマンチックじゃないんだね」
「え?」
この公園のどこにロマンチックさがあるのだろうか。僕の無い脳みそをフル回転させたが、全く理解できなかった。
「だってこの公園、この街で一番、夕日が綺麗に見れる場所なんだよ?知ってた?」
そもそもの考え方が違っていた。物の見方が違っていた。
彼女は、渚さんはこの公園と言う場所ではなく、この公園から見える夕日ならぬ、景色にロマンチックさを感じていたのだ。
普段から、ロマンチックな事など考えもしないこの僕が、ただの公園から見える景色を、ロマンチックなどと思うわけもない。感じるはずもない。
そこが僕と、渚さんとの大きな違いである。
「そういえば、渚さんって何歳なんですか?」
「女の子に年齢を聞くなんて、光来君はデリカシーが無いんだね」
「な……そ、それは……なんかすみません…」
俺は無意識に、渚さんに謝っていた。
「光来君は、本当に面白いね。よし、そんな光来君の面白さに免じて、私の年齢を教えて差し上げよう!」
いや、待て。待ってください。僕の面白さに対して免じられているのだけれど、これは喜んでいい事なのだろうか。はたまた、喜んではいけないのだろうか。
専門家の方、どうか僕に教えてください。僕にどんな状況に陥っても困らない知恵を与えてください。
「私の年齢はね……」
「………」
僕は、生唾をごくりと飲み込んだ。口の中の唾液がなくなるほどに。
「今年で21になるよ」
今まで女の子なんて言っていたのを謝りたい気持ちになった。
「21……って事は大学生?先輩じゃないですか」
「まあ、そうなるね」
その時の渚さんの表情は、何かを隠しているのだと、この僕でもわかった。
しかし、深くは干渉しないようにと、自分の中で自己解決することにした。
「あ、光来君に聞きたいことがあったの!」
「聞きたい事……ですか?」
渚さんは、さっきまでの表情が嘘かのように、満面の笑みで僕に話しかける。
「光来君は、今、好きな人とかいる?」
「?!い、いきなりなんですか。そ、そんなこと急に言われても……」
特に状況を整理する必要はなかったのかもしれないけれど、急な事で混乱していたのは事実。故に、心を落ち着かせる為の時間だったという事にしておこう。
まあ要するに、突然、それはいきなり、嵐のようにこの質問は、飛んできたのだ。
「いるの?いないの?」
「そういうのは良くわからないので……」
「そっか……。じゃあ、私と付き合ってみる?」
「え?!」
それもまた、嵐のように突然、飛んできた。
「いや、僕なんかが渚さんと付き合うなんて無理ですよ、無理!」
「なんで?私は結構いい感じになると思ってるんだけどな。だって、光来君、弟みたいでなんかかわいいし」
「?!」
少し落ち着こう。このままいくと、僕の脳みそと言う脳みそがオーバーヒートし兼ねない。
渚さんは、本気で言っているのだろうか。こんな僕の事を、可愛いと思っているのだろうか。
僕は確認のため、一度渚さんの顔を見た。
「うん、満面の笑みだ」
渚さんが嘘を付いているとは思えないし、本当の事なのかも定かではない。
僕は、再確認するため、渚さんに問いかけた。
「あの、渚さんは俺の事 ――」
「好きだよ」
僕が最後まで話す前に、渚さんは被せて言った。
更に言うと、その言葉で僕は、ノックアウトさせられた。
僕は、その場で答えは出さず、保留にし持ち帰った。
ただ、返事を先延ばしにされた渚さんが、黙って引き下がる訳もなく、デートを要求してきた。
「じゃあ、返事を待ってあげる代わりに、私と今度デートしてよ」
「デートですか?」
「光来君に拒否権は無いんだよ?」
「………はい。わかりました」
返事を先延ばしにしているのは、僕の勝手な都合の為、断る事は出来ない。そんな事は許されない。
渚さんは、許してくれない。
そして、デートの日程を決める為、前回出来なかった連絡先交換をちゃっかり行い、渚さんからの告白に対しての返事は、デートの最後にするという事を渚さんと約束した。
その後、僕は渚さんと別れ、自宅へと帰っていた。
一度帰路に就いた時は夕方だったが、もう辺りは真っ暗だった。
それもそのはず、二時間もの間、渚さんと話していたのだから。
ただ、話したと言っても、お互いの事とかではなく、世間話ばかりだった。
渚さんは、自分自身の事を全く話してくれないのだ。
何か理由があるのかもしれないけれど、僕は、今はまだ触れてはいけないと思った。
今はまだ。その時が来るのを待とうと思った。
その日の夜、一通のメッセージが僕のスマホに届いた。
『デート、今度の日曜日にしよっか。ちゃんと開けておいてね。渚』
こうして、僕にとって初めての、生まれて初めてのデートとなる日が決まった。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
あとがき。
読んでくださった皆さん、ありがとうございます!
少しずつ物語が進展して行ってはいますが、まだまだこんな物ではないです!
今回、少しだけ素性が明らかになった渚ですが、まだ大きな秘密があるっぽいですね。
さあ、次回は光来の初デート編に突入します。
人生初のデートがどのようになるのか、こうご期待です!
では、皆様からの応援コメント、辛口、甘口レビュー心よりお待ちしております!
次回、初デート。
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