第2話 狙われた奥方


3 綱手


 越後の国、東頸城郡(ひがしくびきぐん)―――ここを治める領主は月影照時、照時の息子の照道であった。そこの月影村に城は建っていて、小城ながら堂々とした風格をそなえていた。

照道には田毎姫という奥方がいた。田毎姫は絶世の美女といわれ、その美しさを一目見ようと、わざわざたずねてくる輩がいるほどであった。

月影村には山越えが近道とされていたが、道が険しいのと、山賊が出没するらしく、

人が通ることはほとんどなかった。その山道を女の二人ずれが歩いていた。もう日が暮れかかっている。

「雪乃様、もうすこしで山を越えます。ご辛抱を」

「里、大丈夫です。わたしが近道をしようと言ったが悪いのです。さ、急ぎましょう。日が暮れる前に月影村に着かねば」

二人は急ぎ歩き始めた。

突然、荒くれ者が四人、木陰から現れて二人を取り囲んだ。山賊だ!

「おっとご婦人方、ここを通すわけにはいかねえな」

「へへへ、身ぐるみおいて行ってもらおうか」

女たちは、あっと声をあげてあとずさりした。

「無礼者、下がりなさい。お前たちは何者じゃ」

雪乃が叫んだ。

「ひゃっひゃっひゃっ、下がりなさいとよ」

「いただくものを頂いたら下がってやるぜ、へへへへ」

「俺たちはこの山を根城にする山賊様よ。久しぶりの上玉だぜ。兄貴、楽しましてもらったあとで売れ飛ばせば、さらにもうかるぜ」

山賊たちは舌なめずりしながら、ちかづいてきた。

女たちは追い詰められた。後がない。

その時であった。天から聞こえるような響く声。

「愚か者、この山を汚す者は去れ」

山賊は声の方を振り返った。そこには白い着物をきた老人が立っていた。

「じじい、貴様だれだ。じゃまをすると怪我をするぞ」

「わしはこの山の仙人じゃ。邪魔をするとどうなるのだ」

「仙人だと、うそをつけ!邪魔するとこうなるんだ!」

山賊の一人がもっていた槍でなぐりかかった。

老人はすっと手をあげた。

すると不思議なことに、槍は山賊の手からするりと抜けて空中に浮かび、矛先を彼らの方に向けた。

「わわっ なんだ」

槍は山賊に向かって飛んだ。そして股の間に突き刺さった。

「ひえ」

「じじい、この野郎、なにをした」

頭に血が上った山賊は、刀を抜くと老人に切りかかった。

「うおりゃっ」

老人は胴体を真っ二つに切られた。

「へっ どうだ。ざまをみろ」

しかし、老人の胴体は切り離されたまま血もでていない。顔もへらへらと笑っている。

「ふふふふ、どうした。それで終わりかの」

「げっ 化け物だ!逃げろ」

腰を抜かした山賊は、慌てて逃げてしまった。

不思議なことに老人の姿は消え、代わりに凛々しい若侍がたっていた。

「お怪我はございませぬか」

「あ、あの切られたご老人は」

「ははは、あれは私の幻術です。老人は術による幻です」

女たちは我にかえったように言った。

「そうでしたか、危ないところをお助けいただき、ありがとうございました」

「こんな日も暮れんとす山道を、女子二人では危のうござる。村までお送りいたそう」

「ありがとうございます。あの、あなた様のお名前は」

「拙者は、自来也ともうす。これから月影照道様の城を訪ねるところです」

「なんと、月影様はわれらの主。そして我らは奥方様の田毎姫様の腰元でございます。わらわは雪乃、このものは里といいます」

「それは僥倖。では城まで一緒に参ろう」

 月影城についた二人は、門番に開門をつげた。

門番は腰元二人を通した。続いて自来也が門を通らんとしたとき、鋭い女の声が飛んだ。

「まて!腰元二人は通られよ。連れの男は何者じゃ」

そこには白い着物に白い羽織をはおった、長い黒髪をたらした女が立っていた。

足は動きやすいようにか、旅装束を履き、剣を差している。顔つきは凛として美しく、意思の強さを感じさせる黒い瞳が二つ睨んでいた。

「綱手様、この方は私たちを山賊から助けていただいた方です。あやしい者ではございません」

雪乃があわててさえぎったが、女は取り合わない。

「あやしいか、あやしくないかはわたしが取り調べる。どいておれ」

いうが早いか、女は剣を抜き、自来也に切りかかった。

しかし、自来也はぴくりとも動かなかった。剣は自来也の頭すれすれで止まった。。

「きさま、なぜよけない」

「貴殿には殺気がない。剣を私に当てるはずもない。もし、拙者が月影家の客であったら、怪我をさせたらただですむまい。貴殿は拙者の度量を試しただけだ」

女の表情が幾分和らいだ。

「貴公、名は?」

「今は自来也となのっている。前は尾形周馬弘行と言った」

「なに、尾形。貴公、もしや」

「いかにも、謀反により城をうばわれた尾形光雲の息子だ」

綱手は稽首した。

「自来也殿、無礼ゆるされよ。貴公のこと師の白絹仙人からよく聞かされた。いずれ会う運命の方。わたしは綱手、越中の国、松浦清正の娘じゃ。松浦家も謀反により滅ぼされてしまったが、今は縁あって月影の奥方田毎姫様の世話になっている。貴公は何用でこの城に」

「師の仙素仙人より、ここを訪ねて田毎姫様をおろち丸からお守りするように、との命をうけた。そして、貴殿とも協力せよと」

「仙素仙人殿か、わが師白絹仙人様から聞いておる。おろち丸は父の仇、そして奥方様を狙っておるのじゃ。自来也殿、殿にお取次ぎいたす。しばし、またれよ」


4 田毎姫


 自来也は別室に通された。暫くして自来也は月影照道と接見した。

「そちが自来也か、月影深雪之助照道じゃ。腰元を救ってくれたらしいの。礼をいう」

「自来也にございます。わが師仙素仙人より、照道様には田毎姫様という美しい奥方様がおられるはず。そして、妖術を使うおろち丸が、奥方様をねらっていると聞いております」

「知っておったか、さすが自来也じゃ。数日前のことじゃった。田毎が腰元と庭を歩いていたときじゃ。突然、ものを言う蛇が田毎の前にあらわれたのじゃ」


『ふふふ、田毎姫、美しいのう。わしも貴公のような美しい奥方が欲しい。今月末の夜に迎えにくる。楽しみに待っておれ』

「何者!蛇が喋ると奇怪な!」

腰元の雪乃が叫んだ。

綱手が手裏剣を投げた。

「とう!」

瞬間、蛇の姿は消え不気味な声が空から聞こえた。

『よいか、忘れるな。今月末の夜だぞ。ふふふふふふ・・・・』

「奥方様、あれは本物の蛇ではありません。幻術です。そして、蛇を使う妖術使いは

おそらくはおろち丸かと」

「おろち丸・・綱手、何者じゃ、そやつは」

「わたしも詳しくは知りません。師から聞いたところによれば、蛇の妖術をつかい、数々の陰謀に加担し、おのれの欲望と野望を満たすためには手段をえらばない悪党。その性格、好色にして残忍。かくいう私の父もおろち丸に殺されました」

「なんと、そうであったか。恐ろしや。じゃが綱手、お前がいてくれれば安心じゃ。お前も術者であろう」

「この綱手、命にかえて奥方様をお守りいたします。が、おろち丸は容易ならぬ難敵。けして油断なされぬよう」


 照道は続けた。

「幸い綱手がいてくれたので、まだ大事にはいたっていない。しかし、田毎がすっかり怯えてしまってのう。かわいそうに、飯もろくに食えてないのじゃ」

「万事、この自来也にお任せあれ。綱手殿もおられますゆえ。ただ・・・・」

「ただ、何じゃ?」

「おろち丸は奥方様だけが目的でしょうか」

「なんだと、ほかに目的があると申すか」

「恐れながら申し上げます。おろち丸の真の目的は、この城を奪うことかと」

「なんと!」

照道は腰をぬかすほど驚嘆した。自来也は静かに続けた。

「かつて、おろち丸は謀反人鏑木入道と結託し、拙者の父母を殺し、更科城をうばいました。また、聞くに綱手殿の父上松浦清正殿も謀反人に殺され、城が奪われました。その陰にはおろち丸がいたという話。いづれの手口も酷似しております。ただ、おろち丸は政や権力には全く興味を示さず、手に入れたきは金と女。面倒なことは城主となった謀反人たち任せ、自分は野望と欲望ため暗躍を続けております」

「ううむ」

照道はうなった。自来也はさらに続けた。

「また、城には必ず、おろち丸に通じる裏切り者がおります」

自来也の話に照道は言葉がなかった。奥方が狙われているだけと思い込んでいたが、実は狙われていたのは自分であったのだ。

「家来のなかにすでに裏切り者がいると申すのか。皆何代もの間つかえてきた忠義ものばかりじゃぞ。信じられん」

「なれど、ここに拙者と綱手殿という実例もございますれば。家臣、それも上位のものが動かなければ謀反は成功しません。それに手を貸して高額な報酬を得るのがおろち丸の目論見。それに城の中から手引きをすれば、おろち丸もたやすく侵入できます」

照道はうろたえた。

「じ、自来也、どうすればよいじゃろう。誰が裏切り者か検討もつかん」

「拙者に策があります。それをお話しする前に奥方様にお引き合わせを」

「おお、そうじゃった。誰か田毎をこれへ」

暫くして、田毎姫、照道の奥方が腰元の雪乃、守り役の綱手と共に現れた。

田毎姫。その姿、噂にたがわず月の精霊のように澄みやかで美しい。

切れ長の目、長い黒髪、白い肌、幾分青ざめて見えるその顔に、赤き唇だけが異様に艶麗であった。

「自来也、田毎じゃ。表を上げい」

自来也は平服していた顔をあげた。

さすがの自来也もこのような美しい女は見たことがなかった。

綱手も美しい女ではあったが、奥方の前でかすんでしまうほどであった。

「そなたが自来也か、此度はよろしゅうたのむ。わらわはもう、おそろしゅうて、おそろしゅうて」

鈴を転がすような声が、ため息と共にもれた。

「おろち丸がくるのは三日後の夜じゃ。わらわはどうすればよいのじゃ」

自来也は励ますように答えた。

「奥方ご安心めされい。殿、これから拙者の考えをお話しします。

奥方様、綱手殿以外はお人払いを」


5 襲い来る大蛇

 

 さて、三日後の夜―――城は厳重な警戒がしかれた。

城代の五十嵐典膳以下の家臣が警備を固めていた。奥方は、奥座敷にいて綱手以下の長刀の達人が警護していた。しかし、不思議なことに自来也の姿はなかったのである。

五十嵐典膳は槍を構えてつぶやいた。

「おろち丸だか何だか知らぬが、ここは蟻一匹通さぬ」

深夜丑三つ時、生暖かい風がさーっと吹いた。木々は風にカサカサとゆれた。

そして、城門は音もなく開いたのだ。

どどどど。地鳴りのような音、風は一層強くなった。

そして、闇の中から現れたのは巨大な蛇!

大口を開けて鎌首を持ち上げた。

「ぐふふふふ。約束通り田毎姫を頂きにまいった」

巨大な蛇が喋った。

城を警護していた兵士たちは、恐ろしさのあまり立ちすくんだ。

「ぐふふふ。蛇に食われたくなくば、うごくな」

その時であった。手裏剣が蛇に向かってとんだ。

いや、正しくは、蛇のそばの暗闇に飛んだ。

「そこだ!」

「うっ」

手裏剣は蛇のそばの暗闇に突き刺さった。暗闇から手裏剣を手にした人間が現れた。

おろち丸だ!

「おのれ、このおろち丸の闇隠れを見破るとは、何者だ」

「おろち丸、現れたな。貴様の思い通りにさせぬ。我来たるなり。私の名は自来也!」

「自来也だと、小癪な小僧め!蛇に食われろ」

大蛇が鎌首をもちあげた。

「忍法大蝦蟇降臨!」

ドドーン

自来也が叫ぶと同時に、目の前に巨大な蝦蟇が出現した。

これにはおろち丸もたじろいだ。

「貴様、妖術をつかうのか」

「この世に妖術遣いはお前だけではあるまい」

「ぐふふふ、面白い。俺に勝てるか」

自来也とおろち丸の宿命の対決がここにはじまった。


「ぬん!」おろち丸二本の指が天をついた。大蛇の鎌首が蝦蟇をおそった。

その瞬間、蝦蟇の口から黒い火炎が放射された。

ゴオオオオ!

大蛇は驚いて首をひいた。

「忍法黒火炎をみたか」

「おのれ、小僧!」

おろち丸は再び印を結び唱えた。

「忍法水煙陣!」

おろち丸の声と同時に空に黒雲が沸き、蝦蟇の上に強い雨が降り注いだ。

あたりにはたちまち水の煙が立ち、蝦蟇の炎は弱まってしまった。

「むむっ」

自来也は一瞬、動きをを止めた。

「どうした、自来也、それで終わりか。こっちから行くぞ」

おろち丸がにやりと笑った。

「忍法雷神波!」

蛇が大口をあけた。

バリバリバリ!

口からは雷光が発射され、蝦蟇を直撃した。

「ぐううう」

蝦蟇は雷を食らって体を痙攣させ、苦しそうにあえいだ。

「わははは。わが力をみたか自来也」

おろち丸が勝ち誇ったようにあざ笑った。

「忍法超音振波!」

自来也の声が飛んだ。蝦蟇が大きな口をあけた。

そして、キロキロロと悲しげな声で泣いた。

「わははは、自来也。貴様のかわいい蝦蟇が苦しい、苦しいと泣き始めたぞ」

しかし、すぐにおろち丸はこめかみを押さえて顔をしかめた。

「う、なんだ。この頭の痛さは、うううう」

これはどうしたことだろう。おろち丸が頭をかかえて苦しみだしたのだ。

「おろち丸、蝦蟇は苦しんで泣いているのではない。高い音を貴様に向かって発しているのだ。高い音は鼓膜を破り、脳を狂わせる」

「ううむ、おのれ。これでも食らえ!」

突如、蛇の口から自来也に向かい毒液が放射された。

「うっ これは」

毒液が自来也に降り注いだ。自来也はあわてて防いだが、少しの液が顔にかかった。

「しまった。目に毒液が入った。むむ、目が見えん」

「自来也、油断したな。覚悟しろ」

おろち丸が剣をぬいて自来也に走りよった。危うし!

―――その時

「まてい、おろち丸。わらわはここじゃ」

城の中庭から女の声がした。

そこには袿(うちき)をかぶった田毎姫の姿があった。

おろち丸は、田毎姫を見止めると動きをとめて恭悦の声をあげた。

「おお、田毎姫か。会いたかったぞ」

もはや自来也などいなかったごとく、顔中に好色な笑みをうかべ田毎姫に走りよった。

「迎えにまいったぞ。ささ、一緒にまいろう」

「おろち丸、愚か者。わらわは田毎姫ではないわ。よく見ろ」

おろち丸はぎょっとして叫んだ。

「なんだと、ではだれだ」

「わらわは綱手、貴様に殺された越中の国松浦清正の娘だ!」

袿を天にはらうと、そこに凛々しい綱手があらわれた。

「松浦清正の小娘?そうか、思い出したわ。小娘がわしに手向かうか、笑わせるな。

さっさと田毎姫をつれてこい」

「そうはいかぬ。奥方様はもうここにはいない。安全な場所にかくれている」

「なんだと、おのれ、謀ったな。貴様から先に蛇の餌食にしてやるわ」

おろち丸は、怒りに震えながら綱手をにらみ返した。

「おろち丸。これをみよ!」

綱手がさけんだ。その瞬間、巨大な蛞蝓が現れたのだ。

「おおっ、これは」

おろち丸は驚嘆した。

「貴様も妖術を使うのか」

綱手は自来也に向かっていった。

「さ、自来也、今のうちに目を洗うのです」

「かたじけない」

自来也は井戸の方に逃げこんだ。

「おのれえ、蛞蝓など絞め殺してくれる」

怒り心頭のおろち丸は、蛇を大蛞蝓にむけた。

綱手は印を結び、唱えた。

「忍法蚰液放散(ゆえきほうさん)!」

綱手の声と共に蛞蝓から黄色い液体が蛇に放射された。

ジュジュジュジュ・・・・

「ぐわわわ、これはどうしたことだ。蛇がとけだした。く、くるしい」

蛞蝓の液隊をあびた蛇は溶けだした。蛇は苦しがってくねりだし、やがて消えた。

「ほほほほ、みたかおろち丸。蛞蝓の液に蛇は溶けるのだ」

「むむむ、小童どもめ、覚えておれ」

水煙が強くなった。おろち丸の姿が水煙の中に隠れていった。

暫くすると、おろち丸の姿は消えていた。

不思議なことに、そこには雨が降った後もなく、辺りも濡れていなかったのである。

「自来也、目は大丈夫ですか」

綱手が、目をふきながら戻ってきた自来也に声をかけた。

「綱手、かたじけない。あぶないところだった」

「おろち丸の蛇の毒は強い。念のため、この解毒丸をのんでおいてください」

「ありがとう。しかし、おろち丸は恐ろしい宿敵。いずれまた戦うことになろう」

「まことに」

自来也と綱手はいつしか自来也、綱手と呼び合う仲になっていた。

おろち丸退散の知らせをきいて、ほっとした兵士たちが戻ってきた。

月影照道も知らせを聞いてやってきた。

「自来也、おろち丸を追っ払ってくれたか。ようやってくれた。

綱手も大儀であった」

「照道様、まだ事は終わってはおりません」

「なんだと、まだ、おろち丸がどこかにいると申すか」

「おろち丸は退散いたした。綱手の術でしばらくは動ませぬ。が、しかし・・・・」

「しかし、なんじゃ?」

「裏切り者の始末がござる!」

言った瞬間、自来也は五十嵐典膳の胸元に剣をつきつけた。

「自来也何をする!血迷ったか!」

典膳は驚いて飛びのいた。

「五十嵐典膳、わたしの目はごまかせぬぞ。城門を開けておろち丸を入れたのは貴様だ。いかにおろち丸の妖術でも、この城門を簡単に開けることはできまい」

「何をいわれる。証拠でもあるのか」

「あの時、城門は自然にあいたように見えた。しかし、気づかれぬように開けたのは貴様だ。わたしは門の前の松の木の上から、全てみていたのだ。貴様はおろち丸と手を組み、おろち丸が蛇を使って騒ぎをおこしている間に仲間と照道様をおそう。いつもの手口だ」

五十嵐典膳は青ざめた。しかし、その顔は次第に憤怒で真っ赤になっていった。

「うぬぬぬ、かくなるうえは。皆の者、自来也たちを切れ!」

鬼の形相で典膳は命令したが、だれも動かない。

「何をしておる。わしに従えば恩賞も地位も思いのままぞ!」

自来也があざけるように笑った。

「はははは、無駄じゃ、無駄じゃ。ここにいる兵士はすべて田毎姫様の忠臣、高砂勇見之助殿の兵士じゃ。こんなこともあろうかと全て入れかえておいたのだ。わたしがこの三日間何もせずいたと思うのか。貴様の仲間の裏切り者たちはすでに牢の中。ここには一人もいない。それ、典膳をひっとらえろ!」

兵士が一斉に五十嵐典膳に向っていった。典膳は引き立てられていった。

「照道様、これで完了です」

「ううむ、典膳が裏切り者とは・・・・人はわからんものじゃ」

「すべておろち丸の策略に乗せれられたのかもしれません。おろち丸、恐ろしい敵。次は何を仕掛けてくるか・・・・」














        


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