第十話 告白

「鹿島さん……付き合ってくれますか。」

告白のようになった。飛び出た言葉に自分でも驚いた。ただ彼をずっと見ていたかった。俺たちの様子を伺っていた喫煙者達の無遠慮な視線を感じる。公開プロポーズのようになっている気がして急に恥ずかしくなった。


彼はははははと豪快に笑いだした。彼の左手が動いて、煙草を深く吸い込んだ。動きが全てスローモーションになったように見えて、全ての動きを目が勝手に追っていた。彼は俺から顔を背けて、煙を吐いてこちらを見上げた。

「結構酔ってるな。何食べたいの?」

彼は煙草を消して、拳で俺の肩を軽く叩いて歩き出した。俺は少し呆然としていた。これが答えか?俺は何を言ったっけ?

「振られたかイケメン。こんなおっさんで良いなら付き合うよ。」

彼はよく笑い意外とラフな口調で、居酒屋で見た彼と違う人物のようだった。話せば話すほどおじさんで、自分が本当に甥っ子のような気さえしてくる。

しかし無機物のような、他の人と違う空気が彼を包んでいる。居酒屋で目があった時に感じた哀愁を今はより強く感じる。誰も寄せ付けない澄んだ冬の空のような彼の寂しさはどこからきているのか。


「鹿島さん、あの女の人よかったんですか?」

俺は彼と並んで歩いていて、目が合わない分冷静さを取り戻していた。

「いいよ。飲みにも俺は普段は行かないから。でも君は支えられないから潰れないでね。」

「あの人きれいな人でしたよね。邪魔してすみません。」

彼の応答に俺は納得出来ず、俺は深追いした。

「気にするな。それより何食いたい?」

彼は女の会話を止めたいようで、それ以上俺も踏み込むことが出来なかった。

「そこまだやってるなら入りますか?結構冷えましたし。」

一件目と同じ感じの居酒屋だったが、場所はどこでも構わなかった。

「そうするか。」

彼がのれんをくぐり扉を開けている時に、俺は立て看板にAM3:00と書いてあることを確認した。

「すいません。まだやってますか?」

「いらっしゃい。まだまだ営業中ですよー。」

「二人なんですが。」

店員に遠慮がちに話しかける彼は居酒屋で見た彼だった。俺には粗野に振る舞っているが、それもどこか噓っぽく感じていた。

時計を見ると二十四時前だ。三時まであと三時間。その間に俺は何をしたいのか、すべきなのか。今から店に入ったらもう終電はない。自分に気がある女を逃して、見ず知らずの男とこの時間から居酒屋に行く彼の心理はかなりおかしい。面倒見がいいだけなのか。

質問してもかわされる可能性が高いが、やるだけやってみよう。少し酔えば自分のことを話したくなるだろう。おじさんは大抵酔えば気が大きくなり、本性を見せるものだ。そして後藤の対応をするように、欲しい言葉を投げれば気を良くして彼のことが少しは分かるだろう。俺は俄然やる気と興味が沸いてきていた。

三時間、彼をこの店から帰す気はない。

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