立ち往生

その後、特に良い案が出ないまま解散した。

田村は消される危険があるので景樹けいきの提案で拘置所に入れられた。

簡単に外部の者が入れないのと、景樹を暴走させないためだ。

別れ際に沙弥が聞いたが、景樹の怒りはまだおさまっていなかった。

二人きりにさせるのは危険なほどに。


梓は年齢もあるので帰宅。

対策が決まるまで事務所通いも一時停止。

飴村も帰宅して情報を整理。

相手が先回りする可能性があるため、単独行動は制限。景樹と連携して策を練る事になった。


町田はまだ暫くは回復しないだろう。


沙弥は、洋岸ようぎしとりでが気になっていたが現状お手上げのため大人しく家で仕事をしていた。

「こうしている間にも救えるものがあるかもしれないからな。」

ある程度仕事を終えた後もそわそわと起きてパソコンを開いた。

「景樹くんが落ち着いてくれれば、知恵を借りられるだろうけど……。時間に任せるしかないな。」

カタカタと、メモの内容をパソコンに打ち込んだ。


あの日、襲われたのは景樹の部下であり沙弥を守るワンコ、警官として沙弥を守る町田、そして沙弥。

ワンコが死なないのは砦にはわかっていたはずだ。

沙弥は生け捕りにするように指示されていた。

「……町田君だけ、死ぬ危険があったわけだ。」

タイピングが止まる。

どうしようもなく焦りが募り、首に冷たい汗が伝った。

「町田君を殺したいのではないか?」

小さく震え、爪を噛んだ。

「殺し損ねた町田君をあいつが始末しに行ったのが砦の指示だとしたら……砦は私の保護以外に町田君の処分も目的としていたのでは。」

息が詰まり、必死に

世界が記憶した砦を、感情を、目的を、町田を。

集中すると、流れ込んで上がってくる。


洋岸砦は……。

失敗を恐れている。

流されることを嫌う。恨む。

なのに神の我儘で捻じ曲げられ、葛藤しながらも家に振り回されて塵のような扱いを受けた。

失敗をしたら、また、こうなるかもしれない。

だから、今の、今回をよく知り、慎重に……。

だから沙弥の力も欲しい?

プライドが高く、臆病で慎重な性格。


町田は……満足していた。

ある意味最も…沙弥よりも、神の望みに沿って周りを優先させた。

町田自身もそれを心から望んでいた。

だから、今回も同じように。

欲がなく堅実な性格。


前回の記憶に能力の選択まで入るかと期待して集中したが、サービスなのかその近くまで感情が読み取れた。

ただ、かなりの疲労感があり目眩もする。

冷たい水で意識を保ち、改めて思考を巡らせた。

「砦が町田を嫌う可能性はある。」

沙弥は嫌な予感をより濃くした。

念のため、景樹に町田を守るよう連絡を送った。


「今はこれくらいか。

洋岸砦が先を読めるなら、何をしても対策されてしまうだろうし。」

歯痒さを眉間の皺に刻み、残った水を飲み干し……沙弥は静かにパソコンの電源を落とした。


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