合流
また、入り口が騒がしくなった。
数人の足音、一つだけ小さな…。
「沙弥さまーー!!!さやさまっ!」
一番騒々しい足音が先に入ってきた。
そして二人、女性と
「ちょっと
「お説教を食らったもので。…ああ、うちの部下と合流していたのか。」
女性は軽く会釈をした。
沙弥は首をかしげて聞いた。
「自己紹介を待った方がいいかな?それとも勝手に思い出してしまってもいいなら、そうするが。」
「駄目です!」
女性は慌てて沙弥を止めた。
「飴村さんから『ワンコ』という名前をいただきましたので、以降それで。」
景樹、沙弥、田村がキョトンとした後、景樹だけ笑いだした。
「犬みたいに従順だからか?」
景樹の問いに飴村が頷き、梓は気まずそうに苦笑いした。
「ではこちらの新しい顔ぶれも紹介せねばな。」
沙弥は田村を前に出した。
まだ怯えているが、景樹はすっかり落ち着いているので平静を取り戻した。
「すみません…。た、田村キミノブといいます。
あ、あの……今回の人生の記憶と能力を授かる対象の情報。それが、俺のギフトです。」
「田村さんは私の拘束を解いてくれたんだ。攻撃しないように。」
沙弥が強い調子で付け加えると、飴村と梓が肩の力を緩めた。
「状況からして…私の拉致を企んだ主犯は慌てて逃げ出したようだ。田村は置いてかれたのだろうが、奴らからも殺される可能性がある。」
田村は縮こまって沙弥の説明を聞いた。
「で、私は一度目の記憶は引き出せるが、イレギュラーは知らん。
田村、教えてくれ。まずメンバーから。」
「え、えと……。皆さん知ってる通りの大男のアイツは、前回、ヤクザの下働きをしていて……素手で何人も派手に殺してきた快楽殺人犯でもあります。
ギフトは隠密。見つかる前なら気配を完全に消せます。……そいつは町田旭を再襲撃に行きました。」
飴村が親指で首を横切るジェスチャーをして応えた。
「始末したわ。ここに来る前にワンコが検死室に運んだから、見たければそこで確認できるけど。」
「み、見たくないです!!!」
田村が慌てて叫んだ。
沙弥は梓を見て顔を曇らせた。
「おい飴村……。アズサくんの前でやったんじゃあるまいな?彼はまだ中一だぞ!」
「あ、アズサの前ではしてないわ!袋に詰め込んで運んだの!ワンコが一人で抱えて運んだからアズサは同行しただけよ!」
「ふぅん?……アズサくんがトラウマになっていたら怒るからな。」
沙弥は目を逸らす飴村を睨み付けた。
飴村は涙を滲ませている。
「ぼ、ぼくは大丈夫です!町田さんが助かったのは飴村さんの迅速なお仕事のお陰なので怒らないであげてください。」
ひょっこり顔を出した梓に、田村は目を奪われた。
「かわいい……。」
「おや。」
沙弥は二人を見比べてふうむと考えた。
「アズサくんは男だが。」
「嘘!?もったいない!!」
田村の叫びに梓は頬を膨らませた。
飴村と景樹が、田村を促し、続きを聞き出した。
逃げ出したのは三人。
沙弥を回復させた小柄の女。
職業は前回今回ともに看護師。
ギフトは『他人の怪我を治す力』
息さえあればなんでも治せる代わりに、回復の規模だけ対象者が眠ってしまう。
サポートの白人男性。トム・ウィリアムズ。
前回は米軍に所属、今回は翻訳家。
ギフトは『全ての言語を操る力』
代償は特に無し。
大男ほどではないが身体能力が高く、首謀者に心酔している。
――そして、首謀者。
「俺よりもう少し若い…中学生くらいの男だ。
ギフトは…『今回の情報』
この世界の変動した未来がわかる…しかも、
飴村が叫んだ。
「
「…以上の少数で動いてます。俺が今喋ったこともきっとバレてます。」
田村は震え、怯えている。
沙弥は背中を軽くとんと叩き、柔らかな表情をした。
「守るよ。だから、私たちから離れるな。……首謀者の名前は?」
「 よ、
一斉に景樹に視線が集まった。
「親戚が多いんだ。直系の家族じゃない。」
沙弥がはっと気づく。
「私より若くて政治家だと三十か二十代…。かなり目立つはずだ。思い出してみる。」
「沙弥さまも思い出しづらいことがあるんですか?」
飴村が心配そうに聞いた。
「目立つ出来事、ニュースになるようなレベルはすぐ出る。個人情報ともなるとなかなか……。
ああ、居た。党の看板にされたが党首が不正をして失敗。家からも恥だと言われ、苗字を変えさせるために婿入りしている。」
飴村が「うわぁ。」と声を漏らした。
「今回で恨みでも晴らすつもりでしょうか?」
梓が聞いた。
沙弥はまた暫く目を瞑った。
「わからない。私の力など彼の力があれば要らないとも思う。」
「大きな人災を止めたり、天災の被害を減らすのが良くないと考えているのでは?」
梓の考えに、沙弥はまた難しい顔をした。
「なら殺すだろう。」
一同は、田村の答えを待った。
「仲間に入れたいと言っていました。」
「そもそも何をしたいんだ。」
景樹は苛立ちを声に滲ませた。
田村は思わず萎縮する。
「好きに、楽に……生きたいだけだと。
そのためには世界の被害者が手を組んだ方がいいと話していました。」
「世界の被害者?」
沙弥が聞いた。
「もしや、私や田村みたいに記憶と贈り物を受け取った人の事か?」
「恐らく。神が哀れむ程の人生だったって事でしょうし。」
「ふむ?私はかなり平凡で幸せだったが。不思議だな。」
沙弥の言葉に景樹、飴村、梓が顔を曇らせた。
そして梓が一番に口を開いた。
「幸せはそう感じないと幸せじゃないんだから、沙弥さんはその人生をよほど不幸に感じたんでしょう。」
二番目に景樹が口を挟む。
「死ぬ程辛いのに幸せだと偽らなければならない人生なんて地獄だろう。」
最後に、飴村が唸りながら足した。
「沙弥さまは埋没なんて似合わない!わたしが幸せにするんだから!」
鼻息荒く涙目になる飴村を見て、沙弥は吹き出して笑った。
「ありがとう。君らのお陰で凄く幸せだよ。」
落ち着いてから、田村がまた話し始めた。
「万が一、俺が口を封じられるかもしれないので…これも教えます。」
震えながら、怯えながら。
田村が神から貰った情報をゆっくりと紙に書き留めた。
「はは、下手くそな字だな。」
沙弥が茶化した。
田村は少しだけ震えが抑まり、沙弥に笑顔を返した。
「一応全員書きますが海外の離れた所に住む、地味な
亡くなった人も省きます……。
国内だと―加賀沙弥、町田旭、洋岸くりぃむ、洋岸砦、崎田菜穂子、田村キミノブ…俺ですね。」
飴村は手を上げて制止した。
「待って。色々気になるけど、沙弥さまは藤枝よ。」
田村も困ったように肩をすくめた。
「だから見つけるのに苦労したんです。
前回の旧姓だって
おまけに国に保護されてて近寄れない。」
沙弥が答える。
「藤枝は母の旧姓だ。色々あって早めに
「なるほど、そうだったんですか。」
田村が納得すると、ずっと黙っていたワンコが田村の頭を
飴村は色々察し、ゲラゲラと大きく笑いだした。
「あーー!くりぃむ!アンタ本名くりぃむなのね!!」
梓は哀れんだ目を向けた。
「景樹さんと同じく苗字も名乗りたくないとなると、確かに何も名乗れませんね……。」
沙弥は真顔で田村に向き直った。
「……町田君も、そうなのか?」
田村は眉を上げて表情を和らげた。
「大丈夫です。彼のギフトは『忘却』。
二度目であることを忘れる事なので今は普通の人と同じです。」
沙弥は目を丸くした後、笑った。
「それはとても彼らしい。無欲で神も困ったろう。」
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