景樹

現れたのは景樹けいきだった。

いつもサラサラだった髪は、荒れてはねている。

汗をぬぐい、沙弥と田村を視界に入れた。

景樹はすぐに日本では非合法とされる武器をそちらへ向けた。

退いてくれ。」

景樹は不機嫌な声を響かせる。

沙弥は拘束を解かれてすぐに田村の前に出ていた。

景樹が沙弥にいつも向ける甘い声もふざけた声も、今日は無い。

「刃物を持っているじゃないか。何故、かばう。」

「この人に拘束を解いて貰ったんだ。君こそ銃を下げろ。」

「……。」

無言で、少しも動かず。

お互いに鋭い視線を交わした。

田村は震えながらも、沙弥の影から出ないように固まっている。

無言が続く中、口を開いたのは沙弥だった。

「正直に言え。景樹くん、君はここにつくまでに関係者を見つけたか?」

「……残念ながら、逃してしまったんだ。

ここに来たら確実に情報源を殺してしまうと思ったから、先に主犯メインを探したのだが。」

話していくうちに、声の力が抜けていく。

銃口も、ゆっくり下がった。

「あー。そうだ。

君と一緒にいる男など見て我慢できるはずなんて無いんだよ。」

景樹は、溜め息をついて銃をしまった。

そして両手をあげる。

「頼む。少しでいいからハグをさせてくれないか?」

「断る。」

被せぎみで拒否する沙弥に、景樹は思わず吹き出した。

「じゃあ頭を撫でさせ…。」

「嫌だ。」

「手を…。」

「変態。」

数回応酬して、沙弥も我慢できずに笑い出した。

「景樹くん。お疲れ様。君の逃した主犯を捕まえるのにこの人、田村君が必要なんだ。

どうだい?我慢できるかい?」

沙弥の話にやっと耳を傾けた景樹は屈託の無い笑顔で応えた。

「手足を切り落としたい。」

田村は小さく悲鳴を上げた。

「駄目だこれは。落ち着くまでそこに座りなさい。」

景樹は首を横に振った。

「けーきくん。おすわり!」

「…わん。」

沙弥の声に、少し口許を緩ませ、やっと座った。


「せめて。投げキッスをくれないか?」


沙弥は深い溜め息をして、投げやりにご褒美を与えた。


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