失敗
田村は突然ポロポロと涙を溢した。
「あぁ、また失敗だ。俺は…二度目でもこのザマかよ。何も変わらない。
せっかく、こうなることを読めていたのにギフトの選択も何もかも、失敗だ。」
「……聞かせてくれ。」
沙弥は静かに耳を傾けた。
田村は袖で強く頬を拭うと、俯きながら話し始めた。
―――。
命は失われなかった。
あの時、神と呼ばれるような存在が声をかけてくれた時――世界は動きを止め、徐々に白く消えていった。
最初は怖かったが、どうしようもない流されっぱなしの自分が消えるならと受け入れた。
だが、神の話を聞くと、終わりどころかスタートラインだという。
「転生や死に戻るわけでも、パラレル転移するわけでもなく世界まるごとを巻き戻すと言うことですか?」
(――そうだ。)
「その際に贈り物までくれると。」
ゆっくり目を閉じ、漂う中で一つ気づいた。
「俺だけではないですよね。」
(勿論。)
「ならば……
贈り物を受け取った人と、その贈り物について教えてください。」
(わかった。
ただ、お前は完璧ではなかった。
その規模に合わせた贈り物を授けよう。)
流れ込む情報。
自分の他に贈り物を受け取り、やり直しに参加する者の顔、名前。
人格は問わず、神の実験に沿った行動を取ったかどうかで贈り物の規模が変わること。
トリガーになった人物が誰で…それぞれが何を受け取ったか。
俺はそれを持って、巻き戻された時間に辿り着いた。
「君より少しだけ若いから、生まれるまでは世界を眺めていたよ。」
田村は、沙弥を見つめた。
「世界は君の死をトリガーにした。
だから、君のやり直しを基準に巻き戻っているんだ。」
「糞面倒だな。」
「…もう少し柔らかく言ってくれ。」
「うんこ。」
沙弥が口の両端を引っ張って意地悪に舌を出すと、田村は、困惑して頭を掻いた。
一息つき情報を改めて整理すると、沙弥は神と呼ばれる存在への苛立ちを高め、眉間に皺を寄せ始めた。
「奴を殴れないのが残念で仕方ないが、続けて聞きたい。
田村、
田村は斜め上を見ながら、指先で宙をなぞった。
「空気に漂う感覚でふわふわと見てまわれたから…君を含めた見に行ける範囲のやり直し組を観察していたよ。
生まれてからは危険だから見てないし、見られたのは俺より年上のリスポーンだけだけど。」
「時々聞きなれない単語を入れるのはゲーマーだからかな?」
田村はおどおどと口ごもり、恨めしく「悪いか」と唸った。
沙弥は、少し面白く感じて小さく吹き出した。
それを不愉快そうに睨まれると、眉を下げて謝罪した。
「ごめん、真剣な話だったね。
それで……失敗と言うのは?」
「前回でさえ中途半端に周りに振り回されて楽しくもなく役に立つかと言えばそうでもなく、従順でもなく文句ばかり言う……パッとしない人生だったのにさ。
またビビって『避けるための力』を選択しちゃったから。
……結局避けきれてないし。下手うったら今から俺死ぬんだろ?
最悪だよ!」
田村は頭をワシャワシャさせて叫んだ。
「殺させないようにするから私の味方をしろ。」
沙弥は縛られたまま立ち上がった。
少しふらついてはいるが、毅然としている。
「…顔は綺麗なんだけどな…男なんだろ?あんまり嬉しくないな。」
田村の言葉に沙弥は目を丸くした。
田村は続ける。
「従って死んだように生きるのはもうごめんだ。
その辛さをアンタが一番知ってるだろ?」
「報酬が要るか?」
「彼女。女友達でもいい。可愛い子紹介して。
沙弥は半目になって息を漏らす。
そして、暫く考えた後に自分の胸を軽く揉んだ。
田村はその柔らかさを下心がありそうな眼差しで眺めた。
その目線に不快感を覚えながら沙弥が聞いた。
「私はどう見ても女の体をしているし、事実染色体も戸籍も女で、前の世界で子持ち人妻だったのだが。」
「あ、違った?何だか男みたいな喋り方だからてっきりそうかと。」
ふむ、と沙弥が下唇に人差し指の背をあて、ぽんと手をうった。
「ビビりだから色んな奴をたくさん観察してきて、そういう人と関わる経験があった……ということかね?」
「『ビビり』は悪口に聞こえて傷つくんだけど。」
沙弥はカラカラと笑いながら訂正した。
「小心者。」
大きな、破壊音が反響した。
二人のいる倉庫のどこかが壊され、荒々しい足音が近づいてきた。
複数の足音だ。
「田村、傍に来い!」
「ひぃ!」
情けない声をあげながら、田村は沙弥に駆け寄った。
「お前は可愛い女の子と仲良くできたら幸せなんだな?」
「はい?」
沙弥が笑う。
「まだ失敗と決めるには早い。
君も私も、まだ自由に生きている。生きていける。
まず、私の拘束を解け。」
強い真っ直ぐな目で。
「守ってやる。」
「失敗じゃ、ない?……まだ?」
「そうだ。」
田村は、ポケットから小さなカッターを取り出し、沙弥を縛る紐を切った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます