平穏。

「それで、あずさは伊藤くんと仲良くなったんだね。」

景樹けいきと梓は沙弥の事務所以外でも頻繁に通話していた。

今は、梓が寝る前。

ベッド横のテーブルでパソコンを開き、データを再確認しながら通話をしている。

「はい。きっかけは利用するためでしたが、彼と話しているのは楽しいですし、悪い人ではなかったので。」

「……悪い人ではないって言うと、それ全員に当てはまっちゃわない?」

「え?駄目ですか?」

「そうじゃないけど……手放しで信頼してる訳じゃないんだよね?」

「勿論です。

良い子だとは思いますが、ぼくを苛めていたのは事実ですから。

その分の距離は置いています。」

景樹はほっと気を緩めた。

「景樹さんも悪い人じゃないですよね。」

「それは嫌味かい?」

「そう聞こえましたか?」

クスクス笑いながら、他愛の無い話と報告を織り混ぜ、十分程で通話を終えた。


そう、景樹は悪い人ではない。

沙弥に恋心を抱き、守りたい気持ちがある。

ただ、町田が不安になる程度には手段を選ばない人だ。

躊躇ちゅうちょもしない。

梓を殺せば沙弥が生き残るような場面に出くわせば、迷い無く梓を殺すだろう。

そんな危うさがあった。

梓は何となくその危険な雰囲気も感じていたが、沙弥を守りたい、支えたい気持ちは同じで……。

梓自身もそんな場面になったら沙弥を生かして欲しいと願うだろう。

だから、町田よりは景樹との距離は近かった。


「あ、飴村あめむらさんの事聞き忘れちゃった。」

梓は棚からメモ帳を出して、次の景樹との通話で話す内容を纏め直した。



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