第6話:慈愛

「はあい、今行きます。

 貴方達はこのまま食べていてください」


 私は母子にそう言ったのですが。


「ご主人が用事をなさっているのに、私達が食べているわけにはいきません」


 思いのほか厳しく言い返されてしまいました。

 余りの正論に言い返すことができませんでした。


「分かりました、だったら待っていてください」


 私がそう言うと、母親は子供達に食べるのを止めさせようとしましたが、流石に幼い子から食べ物を取り上げるのは不可能です。

 幼い子が大泣きしてしまいました。


「子供たちが泣かないようにパンを食べさせてください。

 こままでは話もできませんからね、分かりましたか」


「申し訳ありません、ご主人様」


 母親の言葉を聞いてその場を後にしました。

 外にもお腹を空かせた者達が待っているのです。


「お待たせしましたね、頼んでいた物を持っていてくれたのですね」


「ああ、頼まれていた者は全部持ってきたよ。

 あれば頼むと言われていた胡桃とアーモンドも手に入ったよ。

 薬草とクコの実は少ししかなかったけど、果物は一杯あったよ」


 孤児達を束ねている少年が、顔一杯に笑顔を浮かべて返事してくれます。

 年老いた乞食も少年を見て優しく微笑んでいます。

 つい先ごろまでは犯罪者ギルドに仕切られていたこの辺も、今では様変わりしていますが、これも金虎ちゃんのお陰です。

 私にショバ代を払えと脅してきた犯罪者ギルドが、金虎ちゃんによって皆殺しにされて壊滅したからです。


「では、買って来てくれた品物はそれに合わせてパンと交換しますから、順番に運び入れてもらいます。

 パンが足らない場合は、お金で支払わせてもらいます」


「そんなあ、ユリアさんところのパンが欲しんだよ」


 少年が私のパンが欲しいとうれしい事を言ってくれますが、今日は紳士が大量に買ってくれたので、何時もより多く売れてしまったのです。

 最後にこうやって物々交換するので、何時も多めに作るのですが、独りで作れるパンの量は限られているので、そこは我慢してもらわないといけません。

 あるていど定価で売れてくれないと、ここで不利な商品交換ができなくなります。


「そう言ってくれるのはうれしけれど、店で売れないとみんなにお仕事を頼むことができなくなるわ。

 何時も売れるようになったら、手伝いの人を雇うようにするから、今の売れたり売れなかったりする間はこの状態よ」


 この子達に慈悲を与える気持ちに変わりはないけれど、現実は理解してもらわないといけません。

 孤児や乞食を使って利益などないのです、むしろ損をしているのです。

 その上で感謝して欲しいとは言いませんが、邪魔するような真似は許しません。


「いやあ、立派な事をしているんですね、感心しましたよ」

 

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