第7話:疑念
私が声のする方に視線を向けると、そこには昼間大量のパンを買ってくれた、壮年の男性が立っています。
壮年男性だけでなく、私から買ったパンを抱える使用人らしき男一人と、護衛役らしい男が十数人います。
「やあ、店主、随分と気前がいいんだね。
でもそんなに気前よくパンやお金を配ってしまっていたら、店が潰れてしまうのではないかい?
それに、そんなにたくさんの貧民を手懐けてどうする心算だい?」
どうやら、私の行動を誤解した役所の手先のようです。
私が貧民を手懐けて、反政府運動や犯罪を起こすと勘違いしているようです。
金虎ちゃんが犯罪者ギルドを壊滅させたので、裏家業の者達による勢力争いだと思っているのかもしれません。
これは早く誤解を解いた方がいいですね。
「どうもしませんよ。
私は自分が不当に虐げられたので、苦しんでいる人を見逃せないだけです。
大した事はできませんが、飢え死にするような事だけは防ぎたいのです。
その為にこうして働いてもらった分の対価をお支払いしているのです」
「ふむ、働いた分の対価にしては多すぎる報酬ではないかな?
何か他に目的があるのではないかな?」
しつこく確かめてきますが、何に疑念を抱いているのでしょうか?
それが分からないと、適切な返事ができません。
話ながら探っていくしかありませんね。
「確かに一般的な報酬よりもとても多いでしょうが、そうしなければこの方達が飢えてしまいますから、仕方のない事です。
何度も申しますが、私はこの方々が飢える姿を見たくないのです」
「その言葉が本当ならば、聖女に相応しい言動だが、復讐のために準備をしているのではないのかね?
レジネル王国は、聖女である君を追い出してから、天変地異に襲われて大混乱しているから、ある程度の兵を率いて救国に戻って来たと言えば、君が女王となり新たな王国を建国するのも不可能ではないだろう?」
なんと、私の素性も全て調べ上げていたのですね。
その上で、皇国の政府は、私が皇国の貧民で軍隊を組織して故国に戻り、建国するかもしれないなどという、おとぎ話のような想像をしていたようです。
これくらい想像逞しくして先手を打たなければ、皇国のような平和な国は、維持する事もできないのでしょうか?
まあ、平和とはいっても、多くの貧民がいる現実がありますが。
「よく調べられてられるようですが、それは想像力が豊か過ぎますね。
現実をよく見てくださいますか。
ここに集まっている方々で軍隊作って、実際に戦えると思われますか?
天変地異で荒れ果てた国に行って、残された民に満足な食糧を与えられますか?
神の怒りを買った国では、聖女であろうと無力なのです。
もうあの国は滅ぶしかないのです」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます