第三百七十八話 ライブが終了した時

「さて、ライブも無事終演を迎えた事だし、

そろそろ戻ろうか」

「そうですね、いつまでも余韻に浸っている訳にはいきませんし」

「一応あの兵士に確認と報告をしておいた方が良いでしょうね」


高御、神楽、ミスティがそう告げると

一同は扉を開けて通路へと移動していく。

そして移動した先には既に兵士と上官が立っていた。


「皆さん、ご協力に本当に感謝しています」

「それはどうも、ですが襲撃はありませんでしたね」

「ええ、此方もずっと監視していましたが、

次の転移通路が開く事はありませんでした」


高御が兵士に襲撃がなかった事を告げると上官は

監視は絶やしていない事を告げる。

それに続けて兵士が


「第二波が来なかった所を見ると今回の襲撃もやはり、

これまでのパターンと同様にピープルの方も

予測していなかった事態なのでしょうか?」


と言葉を続けると


「ええ、その可能性は非常に高いと思います。

ただ、それにしても新たな獣人が送り込まれた事は

気になりますね」


と七宝がリアリズムを取り戻したかの様に

真剣な顔つきになって発言する。


「ええ、本来何処を襲撃するつもりだったのか、

その点も考えると少し不安ですね。

その事も踏まえて本部に戻り、捕獲した獣人の解析を急ぎます」


神楽はこう話すと手をかざし、目の前に転移通路を出現させる。

それをくぐって戻っていくが、それに気を取られていた兵士達は

その背後をライブ終了直後の月節勇也が通り過ぎていくのに気付かなかった。


兵士達の側を通り過ぎていった月節勇也はホール内の控室に辿り着くと


「ふう、今日も終わったか……」


と明らかに疲れた声で発言する。


「さて、今日のライブも終わったし、次は……」


そういいかけた月節勇也だが、その直後に手帳を取り出すが

それに目をやろうとするが明らかにその動きは何処か鈍くみえる。


「世界が大きく変わっているけど、僕の周りは……

いや、今そんな事を言っていても始まらないか」


そう呟くとふたたび手帳に目をやるが、

その声は何処か自分に言い聞かせている様にも見える。

その様子からは先程までのライブで見られた輝きは全く見られない。


「今日のライブも楽しんでくれたかな……

くれたよね、それに今の世界ではこうした……」


月節の口から出てくる言葉はどれも生気に欠けており、

ライブ上では絶対見せられないのは明白であった。


「もういいや、今日は眠ろう。

今チェックしても嫌な方に行くだけだ」


月節はそう告げると近くのソファーに横になり、

そのまま目を閉じて眠りに落ちていく。

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