第三百七十七話 ライブを見物する時

「ええ、今回の作戦に協力して頂いた謝礼の一端にはなるでしょう」

「しかし、その口実はもっと上手く作れなかったのか?」


上官の意味深な声に続けて兵士はこう告げるが、

その様子に上官は何処か苦言を呈し、その表情も明らかに呆れがあった。

それに対して兵士は


「仕方ないでしょう?幾ら今をときめくアイドルのライブとは言え、

彼等にライブを聞いて行きませんか等といった所でけんもほろろに

断られるのが関の山でしょう」


と少し戸惑った声で話す。

どうやら苦肉の柵で出した策の用だ。


「それすらも見抜かれていたらどうするつもりだ?

仕事そっちのけで遊んでいたと報告されてもおかしくは無いのだぞ」


上官が更に詰め寄ると兵士は


「まあ、その時はその時で覚悟を決めますよ」

「こんな所で決める覚悟があるのであればその分を作戦に回してくれ」


兵士は覚悟を決めていると言った趣旨の発言をするが、

上官はその発言に対し苦言を呈する。

最もその発言は正論ではあるが。


「さて、束の間の癒しを彼等に与えられるのでしょうか?」

「きっと出来るだろう、そう信じろ」


兵士が少し不安になったのか、顔を少し不安げにするが

そんな様子を見た上官は少し諭した声を出す。

一方ホール内の会場に入った高御達の目の前には

まばゆい光に照らされている一人の少年が居た。


「彼が神楽や高御が作戦を開始する前からブレイクしていた

アイドルの月節勇也君なの?」

「ああ、僕も実際に目にするのは今回が始めてだよ」

「まあ、それはそうでしょうね。

今をときめくアイドルを生で見られる人なんて

ほんの一部ですから」


ミスティ、高御、七宝が少年を見てそう呟く。

どうやらその少年が月節勇也の様だ。


その髪は月の名前通りなど黄色に染まっており、

ステージの光に照らされている輝きは見る人すべてを魅了する。

それは高御達も例外ではなかった。


「この歌声、確かに魂や心を揺さぶりますね。

あの子の歌声とステージを絶対に守らなければ」


神楽はこう呟くと視線をじっとステージ上の少年に向ける。

だが彼等の視線と心配を他所にライブはどんどん進んでいき、


「ここに居てくれる、そして中継を見てくれている皆、

今日は本当にありがとうございました!!」


少年のこの声と共にライブは終了し、ステージの光も消えて

緞帳が降りてくる。


「あら?ライブ終わっちゃいましたね」

「外からの連絡も無かったですし、第二波の襲撃は無かったようですね」

「ああ、だけどこの時間は決して無駄ではなかったよ」


七宝の呟きからライブが終わり、その上で

第二波の襲撃が無かった事が分かる。

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