第一話 動き出す時

2020年9月中旬の日本、あまり人が行き交う事が無い公園の中にある薄暗い遊具の中で一人の少年が溜息をついていた。


「はあ……どうしてこんな日々を過ごさないといけないんだろう。

望んだ訳でも無いのに」


その少年の近くに置いてある鞄には名札らしき物が付けられていた。

そこに書かれている名前は覡神楽かんなぎかぐらその名前を聞いただけだと少女と勘違いしそうな名前である。

だがそれだけではない、少年の顔付き、体格ともに少女と言っても違和感のない雰囲気が漂っている。


「神なんてこの世界に存在しない……それは僕自身が嫌という程感じている。

なのにどうして人は神の存在を信じようとするの?

それが僕達を苦しめるのに……」


神楽の家系は代々伝わる由緒正しき神社であった、だがそれ故に覡である彼も又地域の期待を一重に受ける事を宿命付けられていた。

地域に幸いが起これば周囲の人が持ち上げてくる、反対に周囲で災いが起これば覡として責め立てられ、その厄災を鎮める事を求められる。

そうした日々の中で彼の心は家系を憎みたくなる程に荒み始めていた。

そうした荒みを辛うじて押さえているのが今の彼の状態なのだろう。


「神なんて存在……する訳ないのに……」


神楽がふとこう呟いた次の瞬間


「いや、神は存在するかもしれないよ。

君自身がそう思うのならね」


と言う声が聞こえてくる。


「え……誰!?」


突然聞こえてきた声に驚いた神楽が身を隠していた遊具から思わず顔を出すとそこには一人の少年が立っていた。

いや、少年というのも可笑しいかもしれない、何故ならその外見は両性的で小柄な神楽のそれを明らかに下回っているのだから。


「君なの?さっき僕に声をかけてきたのは?」

「そうだよ、覡神楽さん。

僕の名は高御、貴方を迎えに来たんだ」

「迎えに来た?どういう意味なんだ?」


突然現れた上、鞄に名札が付いているとはいえいきなり名前を呼ばれた事に困惑するだけの神楽に対し高御は


「ふふ、そのままの意味だよ。

墨についてくれば君のその内心に抱えている鬱屈した感情を世界を変える力に出来る」


と不可思議な口調で告げる。


「僕の鬱屈した感情が世界を変える?一体何を言っているの?そもそも僕は……」


神楽はこう反論しそうになるがその口を一旦止める。

目の前にいる高御という少年、いや男子児童とも言える存在の口調がどうしても出鱈目を言っているようには思えなかったのだ。


「ふふ、気になるなら先に見せてあげるよ」


高御がそう告げた次の瞬間、彼と神楽の姿はその場から消えていた。

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