生きるということ

「今日の議題は、生きることについてです。」


「生きるという事は、どういう事でしょうか?」

「生命活動を続けるという事ですね。」

「フム、フム。」

「生命を持つ者が、活動するために必要なものを摂取し、エネルギーに変えて活動をすると。」


「摂取しなければ活動できないのだな。」

「そういうものです。」


「摂取されるものは、摂取するものについて何か思うところはないのだろうか。」


「摂取する側は、摂取されるものは摂取されるために存在しているという認識がありますね。」

「そこにこう、敬意の念のようなものはないのかね。」


「ある人もいるでしょうが、ない人が多いと思います。」

「摂取されるものに感情はないと考える人が多いのです。」


「自分と同じ命を持つ存在を摂取して生きながらえているというのだな。」

「そういうものです。」


「生きることをやめたいと願うものも少なくないようですよ。」


「生命を摂取しながら、生命を摂取することをやめたいと願うのかね。」

「少し違いますかね、摂取することをやめたいのではなく、自分の生命を維持したくなくなるのです。」


「維持をやめたいと思いつつ、やめることができないまま生きているものは少なくないようです。」

「やめたいやめたいと言いながら、生命を摂取し続けているのですね。」


「やめてしまった生命は誰が摂取するんだね。」

「摂取されることなく土に帰る模様です。」


「さんざん生命を摂取し続けて、最後は摂取されることなく土に帰る?!」

「そういうものです。」


「そこに、意味はあるのかね。」

「摂取された命は、摂取した人の命と同化して生きているのだと考える人もいるようですよ。」


「生命を摂取し、生きることで、様々な出来事に遭遇し、豊かな感情を得ることができるのです。」

「感情を楽しめない捕食者が生きることをやめたいと願いがちですね。」


「摂取をやめられないものが生きることをやめたいと願うのか。」

「摂取をやめてしまう人もいるようですよ。」


「感情は、心地の良いモノばかりではありませんからね。」

「心地の良い感情を得た記憶が、生きる糧となるわけか、ふうむ…。」


「心地の悪い感情を得て、生きることをやめてしまいたいと願うのですね。」

「生きることはずいぶん難しいようですね。」


「私たち、生きることができるでしょうかね?」

「生きてみなければ、分からないな。」


「ずいぶん会議を重ねてきましたが、そろそろ踏ん切りの付きそうな方は出ませんかね。」

「うーん、いまいち勢いがつかないというか…。」


「生きることに魅力を感じませんかね。」

「魅力を感じるために、生まれてみようとは思えませんか。」


「「「「「もう少し、様子見をしたいですね。」」」」」



屁理屈ばかりこねる魂が増えたので、このところの天国は、密度が非常に高くなっている模様。


…変な伝染病が発生したら、一気に、広まっちゃいそう、ですよねえ…?


私は、限りなく白い空間に、ほんの少しの黒い靄を解き放ち…にやりと笑って捕食者であふれる下界へと向かった。

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