唯我独尊

とても素晴らしい私小説を書き上げた。

生涯において、誇れる作品である。


この話を書くために私は生まれ、生きてきたのだ。

この素晴らしさを、ぜひ、世界へ。


…何という事だ。


世界はこの素晴らしい話を見ようともしない。


なぜだ。


序盤から鏤められた伏線の数々。

中盤の盛り上がり。

まさかの変化。

すべてを回収しまとめられた結末。


出来過ぎた物語は、こうまでも一般世界に受け入れられないものなのか。


人の使命とは、人でなければ成し遂げられぬ、誇り高き目的を持つことであり。

私はその使命に燃え、確かにここに結果を残した。


私はこの物語を書くために生まれ。

私はこの物語を書くために命をつなぎ。

私はこの物語を書くために様々な苦しみをこの身に擁してきた。


だというのに、なぜ。


私にしか成せない偉業を、私は成し遂げたというのに。


埋もれていく、最高傑作。


無理やり引きずり出して、日の当たる場所へと出すも、見向きもされない。

それどころか、見るに堪えない穢れた文字が最高傑作を汚していく。


恐ろしい。


こんなにも人というのは。

文字を読む能力に欠けるというのか。

この私の物語を理解できない気の毒な者たちがあふれる世界で、私のなすすべがない。


失意の中、私は生涯を終えた。


私の手には、私が書き上げた物語がある。


現実世界には私の物語を理解できるものがいなかった。

天界であれば、知能も豊かなものが多いだろう。


私の物語は、人に向けて発するものではなかったのだ。

神に向けての、壮大な物語であったと、ここに来て初めて、知った。


神に、物語を差し出す。

神は、私の物語を読み、読み終わると何も言わず物語を私に返した。


私は、神という神に私の物語を見せてまわった。

物語は、再び私の手に戻った。

神たちの間で、私の物語がブームになる様子がない。


これは一体どういうことなのか。

私の手にある物語をはじめから読み直してみた。


…素晴らしい。


このような素晴らしい物語だ。

なぜ、賛美の声が私に届かないというのか。

しばし雲の上で、自問自答する。


ああ、そうか。


わたしは!


神すら理解ができない崇高な物語を紡いだのか。


私の偉業。

来世に誇れる、私の偉業。


そろそろ生まれなさいと、神から急かされていたんだったな。


よし。

いくか。


私は物語を自分の胸に埋め込んで、天界から現代へとダイブした。

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