第7話

  むしゃむしゃもぐもぐばりばり。



 一人でもくもくとご飯を食べているとシリアが帰ってきた。


「しいあ、おあえり。はあさんは?」

「…ライオット様。食べながら喋るのはいけません。奥様はもうおやすみになられると」


 飲み込む。


「そっか。シリア、ご飯ありがとう。美味しいよ」

「…ありがとうございます。ライオット様、その…お二人とも悪気があったわけでは無いのです。その…戸惑ってしまっただけで…」

「わかってるよ。ほらシリアも食べよう?」

「はい…」


 二人で静かにむしゃむしゃする。





「シリア、俺、強くなるよ。加護が無くたって立派に生けていけるって証明するよ。そしたら父さんも母さんも安心するだろうし」

「…はい」


 むしゃむしゃ。


「明日から朝は走る事にするよ。」

「走る?どこか行かれるのですか?」

「そうじゃないよ。走ることで心肺と下半身が鍛えられるんだ。5歳になったら外に出ていいって約束だもんね」

「…それは加護を授かっていたらの話です」

「でもずっと家にいるわけにはいかないじゃんか。頼むよ、遠くへは行かないからさ」

「……かしこまりました。必ず行く前に私へ声をかけて下さい。行くのは家の周りか、教会までにして下さい。それから…」

「わかったわかった。朝行く前に声かけるからその時また言ってよ。…シリア、ありがとう」

「いえ、とんでもございません。…ライオット様、どうか無茶はなさらずに。お二人も、もちろん私も、皆ライオット様が心配なのです。強くなると言っても加護が無いという状態は聞いたことがありません。どうか、お身体を大事にして下さい」

「うん。ありがとう。御馳走様。じゃあお風呂入ってもう寝るよ。…一人で入っていいよね?」

「…はい。私は片付けを済ませます。おやすみなさい」

「うん、おやすみ」


 俺は軽めに風呂トレーニングをし、ストレッチをしてから就寝した。


 明日から本格的にトレーニング開始だ!




 翌日。日が昇る少し前の薄暗い時間。俺は朝のストレッチと軽食を済ませて、家の外に出た。もちろんシリアに声はかけた。色々言われたけどまぁ大丈夫だろう。今日は遠くまで行く気は無い、様子見程度だ。


 ゆっくりと息を吸う。ひやっとした空気が肺を満たしていく。清々しい朝だ。今までの甘々ライオットを捨て、本格的にトレーニングを始めるにはちょうどいい。




 走る。走る。走る。




 初めての刺激に肺が、大臀筋が、悲鳴という名の喜びを訴える。


 ああ!これが生きるって事だ!



 聞こえるぞ!悦びの声が!


 これはちょっと遠くへ行くのも致し方ないな。筋肉の声に応えないのは野暮ってもんだぜ。



 だんだんと日が昇ってきた。人がちらほら見えてきた。なんだなんだと見られるが構わず、走る。汗がすごい。


 教会に着いた所でペースを落とす。1時間くらいか。帰りも考えたらここで引き返そう。息も上がっている。




 ガサッ



 とその時、背後から音が聞こえた。


 猫か?


「ラ、ライル…どこ、行くのかと、思ったら…教会…?」



 ジルだった。



「おはよう、ジル。どうしたのさ、こんな所で」


 ジルも汗だくで息も上がっている。追いかけてきたのか?結構距離あったぞ?


「窓から、ライルが見えたから…急いで追いかけたんだけど…どんどん、走ってくからぁ…」

「呼んでくれたらよかったのに」

「あんなスピードで走ってたら、声出せないよ」


 お互い息を整えながらゆっくり話す。夢中になっててわからなかったけど、そんなにスピード出てたかなぁ?


「よくついてこられたね」

「ライルの背中が、見えてたから…」

「じゃあ帰りは並んでゆっくり走ろう」

「加護の事で教会に来たの?」

「加護はいいんだ。教会に用があったわけじゃなくて、道知ってたから来ただけだよ。もう帰るし」

「ええ?じゃあ走ってただけ??」

「ああ。走る事で色んな筋肉が鍛えられるんだ。今日から本格的にトレーニングするからな。ジルも渡したメニューちゃんとやるんだぞ」

「…あれ、見たけど…いつもの3倍だったよ…?」

「大丈夫大丈夫。様子見ながら増やしてくから」


 まだ5歳だからな。少しずつ少しずつ。


「あそこからまだ増えるの!?……まぁいいか。ライルが考えたメニューだもんね。きっと、筋肉に良いんだよね!」

「もちろんだ!任せとけ!」


 前世の記憶総動員でメニュー構成してやるぞ!


「ジルも朝、一緒に走るか?メニュー増えてキツいだろうけど、毎朝決まった距離を走るのは、いいぞ?」

「ライルと一緒に…毎朝……走る!お父さんに聞いてみる!」


 新たな筋肉の声に期待しているのであろう。ジルは満面の笑みだ。


「じゃあ帰ろう。当分はうちから教会まで、往復2時間ってとこだな。走る時は呼吸を意識するんだ。吐いて、吸って、吐いて。特に吐く時な」

「苦しいからいっぱい吸うんじゃないの?」

「違うぞ。いっぱい吐かないといっぱい吸えないんだ。だから息を吐き切るのを意識するんだ」

「なるほど…やってみる!」




 二人で並んで走る。そんなこんなで初めてのランニングは終わった。これから毎朝、早起き頑張ろう。




 屋敷に帰ると母さんとシリアにめちゃくちゃ怒られた。流石に遅かった。父さんはもう仕事に行っていたしな。

 母さんも復活したみたいで一安心だ。あのまま寝込んだらぶっとばす神が増えてしまう所だった。シリア曰く、父さんも特に何も言ってなかったようだ。ちょっと不気味だが、まぁこれからの行動で信頼を勝ち取っていけばいいだけだ。





 しばらくはジルと一緒にトレーニングだな。

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