第2話
「んぎゃおんぎゃんぎゃあああああ」
唐突に環境が変わった。神への要求は通ったのかわからないが、俺は気付いたら泣いていた。
周りがよく見えない。動けない。体を抱き抱えられてるらしいことを感じる。
そうか、どうやら転生というのはシームレスらしい。記憶が残るかはわかないとか言っていたが、そんな事はなかったようだ。
「ーーーーーー」
「ーーーーーー」
人の気配をいくつも感じるが赤子だからか頭が働かない。母親と産婆さんらしい人がいるのは間違いないだろうが。
「んぎゃんぎゃ…」
泣いてたら眠くなってきた…寝て起きたらいくらか状況も変わっているだろう。俺は睡眠欲に抗わずそのまま眠りについたのだった。
―――――――――――――――――――――
産まれてから半年がたった。今世での俺の名はライオット・フリードと言うらしい。苗字がある事からそれなりにいいとこの坊ちゃんなのだろう。赤ちゃん補正かもしれないが、部屋も広い。厚手の赤い絨毯はいいお値段の気配がする。
「ライオット様、今日は何をして遊びましょうか?」
そう言いながら俺をベッドから抱きあげてくれるのは、シリアというメイドだ。銀色のショートヘアーで、キリッとした顔は少々冷たい印象を受けるかもしれないが優しい美人だ。俺の両親は忙しいらしく、日中はほぼシリアに世話をしてもらっている。
「ほー」
「絵本を読みますか?ではこちらにしましょうか」
赤子というのは難しい。有効な筋肉が少ないのか体を動かすのも発声もままならない。
俺はもう何回読んでもらったかかわからない絵本を要求し、じっと表紙を見る。
鎧を身に纏った金髪の女性が剣を掲げ、竜の背中で勇ましく立っている。英雄譚というやつだ。
「これは、今よりずっと昔のお話。ある村に…」
シリアが本を開き、読み進める。この世界の言葉や文字は見たことも無い形をしているが、何回も同じ内容の本を読んでもらえばさすがに頭に入ってくる。何を言っているのかもおおよそ理解できてきた。
文明レベルは高くない。テレビは無いし、おもちゃもプラスチックではなく全て木製だ。金属もあまり見ない。そもそも普及しているのだろうか?簡単に手に入らないとなると、ウェイトトレーニングができない可能性がある。鍛えられる部位が限られてしまうので早く外へ行って確認したいところだ。
前世より快適な部分も多い。というのも、ここでは魔法というものが当たり前に存在しているのだ。呼吸をするがごとく皆自然に魔法を使っている。水道が無いのは魔法で水を出せるから。掃除洗濯も魔法。直接見てはいないが食事も魔法で作っているのだろう。俺はまだおっぱいだが。ばぶばぶ。
「ライオットー!おきてるか!?」
ドアがバーンと開き、男の子が部屋に入ってきた。
「ラース様…部屋に入る時はノックをして、お静かに願います」
「ごめん!シリア!おぉ!きょうはおきてる!」
ラース・フリード。
5才上の兄である。体格が良く、いつも元気なわんぱく少年だ。
「ラース、ライオットを驚かしてはいけませんよ。赤ちゃんは寝る事が一番の仕事ですからね」
後から入ってきたのは母さんだ。名前はよくわからない。自分の事は母さんと呼ぶし、シリアも奥様って呼ぶからな。まぁそのうち判明するだろう。
「かあさん!ライオットおきてるよ!本よんでる!」
「ライオットは本が好きねぇ。あらあら、握りしめちゃって。誰も取りませんよ?」
シリアが持っていた絵本をいつのまにか抱いてたみたいだ。
「ライオット!これからきょうかいに行ってくるよ!ぎしきやるんだって!」
儀式?なんだその怪しげな響きは。
「ぎー?」
聞き返そうとするがやはり発声が難しい。文字通り話にならないな。
「すごい!母さん、聞いた!?ライオットがへんじした!」
「あら、まだ半年なのにすごいわねぇ。5年後が楽しみだわ。ライオットなら精霊様じゃなく神様の加護が頂けるかもしれないわね」
加護…!覚えているぞ…鍛えなくても強くなるとかいう例のドーピングか!
「おれだってかみさまからもらうよ!きっと!それもせんしんさまの!」
「ふふっ、そうね。じゃあ神様が待っているかもしれないわ?そろそろ行きましょうか、馬車も来ているでしょうし」
「うん!ライオット、行ってくるね!帰ってきたおれはきっとすごいぞ!」
「だあー」
「母さん!ライオットまたへんじした!」
「ライオット、母さん達ちょっとでかけてくるわね。シリアと仲良くしてるのよ?」
母さんが俺の頬にキスをしてラースと共に部屋から出て行った。
儀式…加護…この世界が筋肉トレーニング生きる喜びを失った人々しかいない事の原因だ。
神から言われた事は忘れていない。
俺の使命…この悲しき世界を作った神をぶっとばす事…
筋肉生涯の友を育てる楽しさ…苦労の果てに一生の友を得る喜びを失った人々の目を覚まさせる……!
決意を新たにした俺は本を抱いたまま眠りにつくのだった。
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