行動力のあった頃
あの頃好きだなーと思ったのは『字』『話し方』
中学3年生の冬。調べあげたあの人の情報を頼りに同じ塾に入った。高校に行くことすらまともに考えていなかった私の突然の入塾報告に、驚きの声が多数上がった。
〜
数学をいつも教えて貰っていた。私のノートに書き込まれる高矢くんの文字は、どこか可愛らしくて小さくて薄い。
「そんなに濃く書いたら消すの大変だよ?」
「そんなに薄く書いたら見えにくくない?」
「慣れてるから大丈夫」
「私も慣れてるから大丈夫」
「あーこれは?この問題教えて」
「ちょっとまってよ」
優しい声が私だけに向けられてる、私のために頭を使ってくれる、そんな時間が幸せだった。
よく一緒に勉強するが、ふざけて教科書に絵を描きあったりもした。2人とも下手くそで沢山笑った。息抜きに遊びにも行った。学校帰りに靴箱で待ち合わせて冷やかされたりもした。そんな時間が好きだった。
でもみんなに優しい高矢くんには好きな人がいる。高矢くんの周りの人達は「加藤さん」の話題で溢れている。私なんかより可愛くて、明るくて、よく笑う。褒め言葉ならなんでも似合う子だ。私のことは「亜子ー!」と簡単に呼ぶのに、あの子のことは「加藤さん」と苗字で呼ぶ。
「なんで私は名前なの?」
「だって亜子は佐藤だからいっぱいいるじゃん」
「ふーーーん」
「なに?」
「なんでもないよ」
佐藤にしては珍しく、私は学年に1人の佐藤さんなのに。
〜
大人数のうちの1人で良かった。少しでも近付けたらいい。だから高校もあの人が行く、ただそれだけの理由で決めた。
みんなで交換し合って書いたあの人の卒業アルバムには女の子からのメッセージで埋め尽くされていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます