ひとめぼれ

一目惚れとは「相手を一目見ただけで恋に落ちてしまうこと」らしい。なるほど、迷惑な話だ。あの日、私は恋に落ちて、戻って来れなくなってしまった。



冬の寒さが本格的に始まろうとしていた頃、部活の帰り道に美奈との会話がはずみ、立ち話をしていた。


「亜子はさ、変な人にモテるよね」

「いや、モテるとかじゃない、変に追っかけられてるだけ」

「好きな人作りなよ」

「美奈みたいにほいほいいい人みつかはないんで〜」

「髪の毛切るとかは?イメチェンとか」

「んー今はロングがいいからな」

「ミルクって美容院良かったよー」


他愛もない話が続き、会話の終わりが見つからない。私たちには良くあることだ。側を通り過ぎる下校者は多い。そんな中ひときはこちらに視線を送る人が1人いた。知らない人だ。


私の中学校はわりと大きくクラスが違えば知らない人は多かった。


その時ふと目が合った。その顔はどこかマヌケで何を考えているか分からない。自分のことをカッコイイと思ってるように感じる顔だ。その顔がツボだった。その人が通り過ぎた後私は大爆笑した。


「ちょっと亜子!笑いすぎ、なになに!」

「あはっははは!まって、笑い止まらない!」

「やば、今日は帰ろう」

「ごめん、ははっ、続きは明日話す」

「うん笑いすぎて転けないでね」

「ありがとう、ははっばいばーい」


笑いすぎて話もまともに出来ず、美奈とはすぐ別れた。


その笑いは何日も続くものになった。授業中に思い出し笑いをしてしまうほどのものだ。



あの日、美奈と別れてすぐ土砂降りの雨が私を濡らした。帰宅してすぐにお風呂に入り、シャワーを浴びながらあの人の顔を思い浮かべて笑っていた。

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