「は、は、はぁ」

 終わりじゃない。踊って終わりじゃ、ない。

 あのとき、あのひとが、声をかけてくれたように。今度は私が。声を、かけなきゃ。


 ガラス張りの窓のほうへ。

 足が、動かないや。全力で踊ったから。

 もつれる足。動け。がんばれ。

 あのひとのところに。

 絡まる。足が重い。だめだ。倒れる。


 腕。


 誰のだろう。


 支えられる。


 抱えられて。


 運ばれてる。


 誰に。


 背中と膝の裏側。あたたかい。


 目を開けた。


 あの日、タオルで拭いた、首筋。動いてる喉。


「ごめん、な、さい」


 うまくしゃべれない。


「汗、とか、ついちゃっ、た」


「なぜ」


 椅子か何かに、降ろされる。


「なんで、って。それは」


 用意してた。訊かれると思ったから。四年前から、ずっと。


「わたしが、十八で、あなたが、二十五だから」


 声を、振り絞る。椅子なんか、知るか。立ち上がってやる。


「私は夜ひとりで歩ける年齢だから。あなたのなかに誰がいても、わたしは、あなたのところに、行って」


 立ちくらみ。


 支えられる。


 違う。


 抱きしめられる。


 足がふらふらでも、意識が途切れ途切れでも、無性に踊りたくなる。

 人のあたたかさ。夜。空港。ガラス張りの窓。

 心臓の鼓動。跳ねる。回る。ぴたっと止まって。抱きしめる度に、もういちど、跳ねる。

 遠くで誰かの歩く音。近付いてくれば、どこかに逃げるだけ。いまの私は、あなたの腕の中。この腕のなかが、私にとっての世界のすべて。

 たのしい。跳ねる。回る。血が駆け巡る。

 オレンジの街灯も、赤と緑に切り替わる信号も、月の光さえも。すべてが見えなくなる。私は、いま、ここにいる。

 踊れ。踊れ。私は、いま、あなたの腕のなかにいる。



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