第4話


「見習い魔導士が悪いとは言わない。攻撃魔法は強力だし、マスタリーまでレベルが上がれば、魔導士、治癒士、呪文士といった職業に転職できる。高位の術師になれば周囲から一目置かれるし、引く手数多だ」


 なんだか凄そうなんだけど、何がいけないのだろうか?

 今だ笠間神父は頭を抱え、絶望のオーラを放ったまま。それを見かねたのか、十六夜が俺の前にやってくる。


「簡単に説明するとですね、一番最初に見習い魔導士を選んじゃうと、すぐには魔法が使えないんですよ」


 なるほど。魔導士なのに魔法が使えない。じゃあどうやって戦えっていうんだよ!


「ステータス画面に、『魔力』と『霊力』っていう項目がありますよね? 基本的に普通の人間が転職すると、魔力も霊力も初期は0なんです。魔力は魔法を使っていないと、霊力はスキルを使っていないと、レベルが上がっても数値は上がらないんです。それ以外の数値も、経験値を得る際の行動によって伸び方も変わってきます」

「なるほど、じゃあモンスターを魔法で倒せば、その魔力や霊力も上がるってこと?」

「そうです。でも、霊力が0だとスキルや魔法の使用はできないし、魔力が0だと魔法は発動しません。普通の人は最初のレベルアップで霊力にポイントを振って、次のレベルアップでスキル取得のためにポイントを使用します。そうすることで、剣士や闘士はレベル3からスキルを使ったレベル上げができるようになりますが、魔導士はそうはいきません」


 ということは、俺が魔法を使うためには、魔法を覚える、魔力を上げる、霊力を上げるの3つをしないといけないってことか。


「魔法を取得するためには、低級魔法でも3ポイントが必要です。初級職業がレベルアップで得られるポイントは2ですので、少なくともレベル3にならないと魔法スキルは取得できません。さらに、霊力はゲームでいうところのMPと同じなのですが、これも最低でも2はポイントを振り分けないと複数回の魔法使用ができませんし、魔力を上げなければ魔法は発動しないので、最低限、レベル5までは魔法を使って戦闘ができません」

「じゃ、じゃあ。とりあえず低級のモンスターを倒しながら、レベル5にすればいいんですよね?」

「その通りですが、どうやってモンスターを倒すんですか?」

「剣とか使って?」

「武器は決められた職業以外は装備できません。例えば、剣士系の職業の方以外が剣を装備することはできません。それに、剣士系の職業の方以外が剣を持って歩いていると、銃刀法違反で警察に捕まります」


 事案だった。っていうか職業が剣士職なら、警察にもスルーされるってこと?


「どうやら一般人には認識されないみたいです。和泉さんも今まで気づかないでいただけで、結構装備を着けた人っていますよ?」


 それも世界から外れたってことなんだろうか。実は電車で隣に乗ってる人が帯刀してたりとか、道すがら魔法使いの杖をついて歩いていた人とかもいたんだろうか。

 自分も世界から外れたとなると、世界が変わって見えそうで怖いよ。


「素手でモンスターを倒す、という手段もありますが、初期の魔導士が装備できる防具では、低級のモンスターの攻撃を3回も受ければ、女神スフィア様の下に召されることになるでしょう」

「ふ、復活とかは? 教会があるじゃん」

「死に戻り、という意味での復活ならありません。人間、死んだらお終いです。上級職の聖女や聖人であれば、死んですぐであれば蘇生魔法を使用すれば生き返りますが、そうそう近くに蘇生魔法が使用できる人はいませんよ?」

「キミや神父様は使えないの?」

「じいさまは見習い修道士のレベルをマスタリーまで上げて、修道士の職は持っていますが、それ以上のレベル上げをしていません。アタシも、見習い修道女のレベルをマスタリーまで上げたので、次は見習い闘士に転職するんです! なので我々は使えません!」


 ふんすと鼻息荒く説明してくれる十六夜。教会運営のために資格は取ったが、それ以上の興味はなしということか。

 しかし、死んだら終わりというのは困った。ますます戦いたくなくなった。


「結局、効率良くレベルを上げるのは適正レベルのモンスターを倒すことです。ですが、おそらく現在の和泉さんのステータスでは、どれだけ装備を揃えても不可能です」

「まあ、その通りではあるんだがね」


 どうにか持ち直した笠間神父が、ゆっくりと立ち上がってこちらに近づいてくると、十六夜の襟首をつかんでひょいっと持ち上げる。


 背が小さいから軽そうには見えたが、片手で持ち上げるとはすごいな。などと感心していると、笠間神父は十六夜を空中に放り出し、キャッチした。右手人差し指一本で。


「これもステータス上昇のおかげなんだよ」

「じいさまの筋力は1000を超えてるんです。業界ではすでに人外扱いされてますね」

「誰が人外だ! とにかく、ステータスが上がればこのように普通の人以上の力を発揮することができるのだが、初期ステータスでは一般人と何一つ変わらない」


 ですよねー。笠間神父の筋力1000って、俺と桁が2つも違いますもんね。レベルが上がるごとにどのステータスがどれだけ上がるかは、経験値を得た時の状況で違うとは言ってたけど、1上がるとどれだけの変化があることやら。


「それでだね、魔法で安全に魔獣を倒せるようになるまで、かなり時間はかかると思うのだが、クエストを受けてみてはどうかな?」

「クエスト、ですか?」

「ああ。どのみちあそこでの登録は必須だからな。ついでにクエストを受けてくるといい」


 またまたやってきましたゲーム展開。つまりこれは、冒険者ギルドに登録して、クエストを受注するってことか!


「当然モンスター討伐の依頼じゃないやつだよね? それでいて安全なやつって言ったら、あれ?」

「当然、あれだな」

「最も効率が悪く、最も時間がかかるという……」

「「おつかいクエスト!」」


 おつかいクエストかぁ。MMOとかでよくあるやつだよなぁ。でも、あれって最近のゲームだと結構経験値うまかった気がするんだけど。1つ受ければレベル1上がるくらい。


「とりあえず、十六夜があそこまで案内してあげなさい」

「えー、入り口まででいい?」

「最後まで着いていろ」

「嫌ですー。あそこにはあいつもちょこちょこ顔出すらしいから、行きたくないんですー」

「聖職者が人の好き嫌いをするんじゃない。とにかく、和泉君が転職してしまったのは、お前にも落ち度があるんだから、和泉君のレベルが30になるまではサポートしてあげなさい!」

「そんなぁ。せっかくこの春休みで見習い闘士をマスタリーしたかったのにぃ」

「手伝わなかったら、闘士への転職はさせてやらないからな」

「そんなのずるい!」

「いいから、とっとと行ってこい!」


 そんなこんなで、俺と十六夜は教会から叩きだされてしまった。


 とりあえず、早く魔法が使えるようにならないと。そう思いながら、十六夜の後を追うのであった。






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