第3話


 ひとしきり十六夜が笠間神父に説教された後、説明が再開されることになった。


「先ほども話した通り、この教会は転職の教会。人に新たなる職業を与える場所だ」

「剣士とか魔導士の職業って、どうやって仕事をすればいいんですか?」

「まぁ、普通はまずそこからか」


 笠間神父はコーヒーを啜ると、コホンと咳払いをして居住まいを正す。こちらも背筋を伸ばして、説明を聞く準備ができたことを伝える。


「一般には公表されていないことだが、この世には魑魅魍魎、魔獣や悪魔などが存在している」


 ま・じ・で!

 でたでたでました、世界の裏側設定。忘れていた中二心が熱く燃え上がるような気がする。その力で、世界の混沌と戦ったり、悪の組織を壊滅させたりとか、愉快な妄想が広がってしまいそうだ。


「世界にはそういった魔のモノたちと戦うために、戦闘の職業を取得し、スキルを獲得する。そして、職業をお与えくださるのが女神スフィア様であり、この転職の教会だ」

「じゃあ、俺にもその職業やスキルが手に入ったんですか?」

「まあ、その下地ができたというところか。まずは職業のレベルを上げて、ステータスポイントを手に入れる。そのポイントを振り分けることで、スキルを取得したり、ステータスを向上することができる」


 なるほど、急にゲーム要素が登場した。登場したといえば、あの女神様が登場した時点でゲーム要素万歳だったのだが。


 そういえば、突如現れた視界の上部を占領しているゲージ。意識を失う前は『7/230』だったのが、現在では『200/230』となっている。


「ああ、体力ゲージか。それは転職すると見えるようになる、その者の体力の数値。それが0になると死ぬから、気をつけなさい」


 笑顔でそんなことを言う老紳士。0にならないように、どうやってこの数値を管理すれば良いのか?いわゆるHPというものだろうと理解できたのだが、それを保つ方法を教えてください。


「それから、体力以外の数値はステータス画面で確認できる。『ステータス』と言えば画面が表示されるよ」


 おお、まさにファンタジー!言われた通りに『ステータス』とつぶやくと、目の前に四角いウィンドウ画面が現れる。


見習い魔導士 レベル1

体力 230

霊力 0

筋力 50

魔力 0

耐久 20

俊敏 30

器用 40


「指をスライドすると、ステータスの項目が切り替わる」


 言われるままに、指で画面をスライドする。すると、新しい画面が表示される。


所持スキル

なし


 これはさっき話にあったスキルってやつか。しかし、所持スキルなしって。やっぱりチートなんてのはなかった。ステータスも、パッと見上限がどこまであるかわからないが、果たしてこの数値は高いのだろうか?


「もう一つスライドすると、職業画面に切り替わるのだが……」


 どこか歯切れの悪い笠間神父を尻目に、もう一つスライド。


取得済み職業


・小学生

・中学生

・高校生






※現在変更可能な職業はありません



 うん?何この注意書き。それにさっきの神父の態度。これきっと、なんかものすごい面倒な注意書きなのでは?


「取得済みの職業は基本的に変更可能なんだが、初回の転職に限り、マスタリーレベルまで到達しないと変更ができない」

「どういうことですか?」

「うん、つまりな。今の職業で上限のレベル30にならないと、高校生にはもどれない」

「は!?」

「キミは見たところ、半田高校の生徒だろう? 確か明日から春休みだったな。こりゃ、不幸中の幸いだ。はっはっは!」


 いきなり豪快に笑いだす老紳士。

 

しかし、高校生に戻れないとはどういうことか?


「高校に通学しても、キミは職業が違うから生徒として認識されない。だから、学校に入ろうとすると、不審者として叩きだされるだろうな」

「で、でも、この学生証を見せれば!」


 慌てて胸ポケットから学生証を取り出した俺は、自分の目を疑った。学校名や顔写真が記載されているはずのそれは、真っ黒に塗りつぶされており、ただの黒い紙に成り下がっている。


「ちなみに、家に帰って学生服を脱ぐと、もう着れないよ」

「マジですか!」

「体操服も無理らしいね」


 職業が違うので装備できませんってやつか!小学生のころ、幼馴染に無理やり剣道場に連れて行かれて、無理やり道着の袴を穿かされたときはそんなことなかったのに!


「いわゆる、普通の世界から外れた。と、この業界では言っている。世界から外れたことでステータスやスキルの参照ができるようになったし、取得も可能になった。それに、今までは見えなかった魔のモノも見えるようになっている。人が住む街には結界が張られているが、外に出れば魔のモノはたくさんいる。見習い剣士や見習い闘士なら、その辺の草むらにいる低級モンスターでも狩っていれば、すぐにレベルもステータスも上がるはずだ」


 なるほど、俺が知らないだけで、この世界は魑魅魍魎が闊歩していたのか。まあ、日本でも昔から鬼や悪霊の話が残っているし、今よりもずっと職業選択の幅は狭かっただろうから、さっきの話の世界から外れた人も多くいたんだろう。やっぱり、代々続く妖怪退治の一族とかもいるのだろうか?


「ああ、そういえばまだキミの職業を聞いていなかったね。ある程度の装備なら貸してあげられるよ」

「えっと、見習い魔導士です」

「……」


 あれあれ、時間が止まっちゃったぞ。俺、何かやらかしちゃった?もしかして聞こえなかったのかな?


「見習い魔導士なんですが」

「な―――!」


 うわ、笠間神父アゴ外れそうなくらい口開けちゃって。なんかそれほど驚くことでもあったのかな?


「えっと、神父さん、どうしました?」

「見習い魔導士に、しちゃったの?」

「へ、へい」

「うあっちゃー」


 今度は頭抱えちゃったよ。どうしよう、そんなに見習い魔導士ダメだったのか?せっかくだから、魔法とか使ってみたいと思ったんだけど。


「職業選択は自由だ。誰かが文句をいう筋合いはない。だが、最初に見習い魔導士は、絶対に選んじゃダメなんだぁ~!」


 老紳士、すでに紳士さがどこにもなくなってしまった。


 何も知らずに転職させられてしまった俺ですが、やはり転職する前の下調べは重要なのだなと、この年で理解させられてしまった。


 でも、そんなに見習い魔導士はダメなのだろうか?





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