2005年6月14日(火)23時55分

 深夜。ラーメンを食べに自然公園へとやって来る。

 何処で聞いたが忘れてしまった出自不明な噂話では、この公園に超絶美味いラーメンの屋台がやってるらしい。


 訓練疲れで早めに寝た俺は、深夜の十一時と言う半端な時間に目覚めちまった。


 何かカップラーメンでも食おうかと部屋の戸棚を開けて見るが……。

 備蓄した食料は見事に空っぽで、それらしい食料なんてあるとすれば缶詰のビーンズくらいだった。


 あぁ、別に食べたワケじゃないのに買っちまった奴だこれ。

 普段の俺なら『豆如きが俺ん腹を膨らませようなんざ百年早ェんだよ』。

 なんて台詞を吐きそうなものなんだが。

 なんで買ったんだ。俺の知らん間に百年経ったのか?


 ………あぁ、なんだっけな。

 確か、あれだ。映画でも見てそれに触発されちまったんだっけか。

 バカだな俺は。感受性豊かって言うか、影響されやすいって言うか……。

 いや、でもあの時のビーンズマジで上手そうだったんだよな。


 ………え?いや喰わねぇよ。流石にこれを開けて貪り喰う気はねえから。

 だって不味そうじゃんかよ。味なんて塩だけっぽい感じだしよ。


 つぅわけでこのビーンズは再び戸棚の中へ戻す。

 さらばビーンズ、可哀そうなビーンズ。恨むのならばあの時のテンション高かった俺を恨んでくれ、今の俺を恨むのは逆恨みだからな。恨みやがったら蓋開けて中身をトイレに流し込んじまうからな。


 ……まあ、そんな事で腹を空かせた俺は夜中に喰うカップラーメンの味を思い出したワケで、あさがお寮から出て警備員に外出許可を貰ってコンビニへと歩いていた。


 たまには真夜中にコンビニに行くのも悪くねぇな、なんて思いながら自然公園前までやって来て、そこで俺はふと頭に噂話を過らせたから、その噂を確かめるべく公園へと入っていったのが十数分前のこと。


 当初の目的とは大分違ったが、まあ仕方が無い。

 カップラーメンも良いが、やっぱりちゃんとしたラーメンの方が魅力的だろ?

 そんな理由で、そんな経緯で、俺は自然公園で屋台ラーメン探しに勤しんでいた。


 この自然公園は何気に広い。何せ運動部がランニングコースに組み込む程だ。散歩コースを一周するだけでも十五分は掛かると聞く。


 広々と野球やサッカーをして遊べる芝生の広場、子供が安心して楽しむ事が出来る遊具コーナー、体の筋肉を全面に使うアスレチックコーナーなど様々ある。


 自然公園に入って色々と見て回って彼是三十分は経っただろうか。ラーメンの屋台は見えず、ラーメンの香りすら匂わない。


「……んだよ」

「出てねぇじゃんかよ」


 所詮は噂、デマって所かね。

 それとも時間帯が悪かったのか……やってない日もあるのか。


 まあいいか、どうせあれば儲けモンなんて思ってただけだしな。

 無けりゃ、もう仕方がねぇ。

 このままコンビニでも言ってカップラーメンでも買っておくかね……。


 ―――ギィギィと音が聞こえる。

 

 俺はこのまま進んで公園の反対側の出口を目指した。

 かなり遠回りになってしまったが、まあ気分転換と言うワケで誤魔化しておくか。

 

 ―――ギィギィと音が聞こえて来る。


 ………ん?そう言や俺。

 財布ン中幾ら入ってたっけか………あー、こりゃヤベェなオケラだ。

 キャッシュカード……中身あるか?期待出来ねぇな。

 えっと……支給されたクレカの限度額、まだ限界に達してねぇ、よな?


 いや、分かんねぇな……俺そう言うの気にしねぇからな。

 無かったら骨入り損だな、俺、コンビニまで散歩して来ただけになっちまう。

 交番にでも行って代わりに千円札落したでも言って来るか?いやでもこんな時間帯だ、ポリ公にゃ不審に思われちまうだろうな。


 ―――ギィギィと。ブランコが音を鳴らしている。


 ……漸く俺は音が気になって来た。

 少し生暖かい夏の前の季節。こんな時期は少しも風なんて吹きゃしない。

 だってのに、なんでブランコは風も無くギィギィなってんだよ。


「……たまんねぇな」


 風が無ェって事は、つまり誰かが利用してるってワケだ。

 そうじゃねぇと可笑しいだろ?何事も無くブランコが音を鳴らすか?

 ……動く事無く音が鳴るってのも奇怪的で十分怖ェな。


 つか、真夜中の公園ってよく考えたら怖ェわ。

 だって昼間の喧噪さに比べたら、物静かって感じっつうぅか。

 死んだかの様に音がしねぇんだもん。


 幽霊とか化け物が出てもおかしくねぇぞ。

 ………あ、やべぇ。なんか怖い話思い出してきやがったよ。

 あぁ、嫌だ嫌だ、こんな所さっさと離れちまいたいね。


 ………けど確か、ここの自然公園のブランコ、遊具コーナーしかないんだよな。

 そんで、遊具コーナーは子供が遊びやすい様に結構近くに設置してるんだっけか。

 つまり、俺が自然公園から出る為には、出口付近に設置した遊具コーナーを通らなくちゃならんワケだ。


 それは、音の出自元であるブランコを嫌でも通らなくちゃならん。

 ………あぁクソ。幽霊なら士柄武物がありゃ良かったんだが。

 生憎と持ち合わせてねぇんだよ。俺は仕事とプライベートは分けるタイプだからよ。


 はぁ。どうすっか。

 通りたくねぇんだけど。

 けどその場合はまた戻らなくちゃならねぇんだよな。

 ゆっくり歩いて数十分。走って戻っても十五分。

 このまままっすぐ進めば、五分も経たずにコンビニに到着するのによ……。


〈まっすぐ進む〉→九重花初対面

〈来た道を戻る〉→花天禱に出会う。


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