2005年5月11日(水)11時13分
「ぐ………ぅ」
「は、あぁ……ぎッ」
二時間ぐらいグラウンドに寝込んで漸く体が動く。
(た、立つのも)
(やっとだ……)
(クソが……)
それでも牛歩の足並み、真面に歩く事なんて出来ない。
引き摺る様に足を動かして何とかグラウンドから離れていく。
(体中、痛ェ……)
(ざけんな、クソッ……)
荒く息を吐く。
喉は訓練の影響で枯れ果てている。
まるで砂を飲み込んだ様だ、カラカラで、掠れた声しか出てこない。
「あッ……ひ、ぎ」
「み、水……」
「はッ、あぁッ……」
鉛の様に重たい体を引き摺る。
今日は一段と疲れている。
それもそうだ、今日は前人未踏、最大十二回殺害を引き当ててしまった。
何度も何度も殺されて、俺の体は限界を超えてしまっている。
「か、はッ」
「水……」
グラウンド近くまで歩き出す。
其処には自販機が設置されていて、其処には水が売られていた。
俺は必死になってポケットから晒しの千円札を取り出す。
ボロボロの千円札を突っ込むと、すぐに千円札が出て来た。
「あ、く、ックソがッ!!」
強く自販機に握り拳を叩き付ける。
たかが千円札がボロいだけで読み取り不可能にしてんじゃねぇよクソ機械が。
人間以下の癖によ、人間様をイラつかせんじゃねぇぞボケがッ。
自販機を睨みながら俺は千円札を指で伸ばす。指先は震えて力が出ないが、それでも何とか先程のボロよりかはマシな状態にして千円札を入れると、やっとの事で反応するのだった。
馬鹿がよ、一度で読み取れや。
そう悪態を付いて俺は握り拳でミネラルウォーターのボタンを殴り付ける。
そして、自販機の下からガコン、とペットボトルが出て来た。
倒れ込む様に自販機に縋って、俺はミネラルウォーターを取り出すと乱暴に蓋を開ける。
握力が無い為に蓋を開ける事すら苦戦する。
ただでさえ無意味に殺されて苛々が募ってんのに、こんな当然な事も出来ない事に更に苛立ちが増加していく。
やっとペットボトルの蓋を開けると、俺は震える手でペットボトルの水を流し込んだ。
「んぐッ……か、ひァ」
自販機で冷蔵された水が喉に流れ込む。
キンキンに冷えた水は渇いた体には刺激的過ぎた。
スポンジで吸収する様に体中に水が通っていく。
「かはッ」
「うめェ……」
言わざるを得ない。
これ程美味いと感じたのは久方ぶりだ。
小学生の頃、遠足で山を登った事がある。水筒は用意されず、喉がカラカラになりながら目的地まで登り切った後、其処で水道水を飲んだ時よりも、何倍も美味いと感じてしまう。
「く、は………」
息を荒げる。体内に水が浸透して、生きる活力に変わる。
安堵を覚えて瞼を下ろす。このまま眠りに付いてしまいたい。
呆然と俺は顔を下に向けたまま、ふと俺は嫌な事を考える。
何してんだろうな俺は、と。
この学園にやって来て、化け物と戦う為の準備をしてきて、その準備は半年経ったがそれでも俺は使い物にはならないと判断される。
そもそも、俺は別に来たくてこんな場所に来たワケじゃない。
俺は、俺の呪いが解けるかも知れないから、と聞いたからこんな死に物狂いな思いをしてるのによ。
「……糞が」
言葉を漏らす。鬱憤と憎悪を練り込んだ言葉だ。
溜息を吐く。そして新鮮な空気を吸おうと顔を上げる。
すると、俺の視界には女が入り込んでいた。
女、そう、さっき見た女の顔だ。黒い学生服を着込んだ良いトコの女学生。
その女は俺を見ている。その目は負傷者に対する目線じゃない。
汚らしい犬を病原菌だと言って睨む様な顔だった。
明らかに俺を俯瞰して見下していやがる。高飛車なお嬢様にとっちゃ俺みたいな人間はゴミの様に写るんだろう。
胸糞悪い、こっちの方が気分が悪くなる。
「……チッ」
なんとか体を動かす、どうにかその場から離れる程に回復出来た。
手で掴んでいるペットボトル、まだ中身は残ってるがもう必要は無い。
蓋を閉めてゴミ箱に向けて投げる。
からん、とスカった音が聞こえた。
俺はそのまま、その女の視線から消える様に歩いていくが。
「ちょっと」
高圧的な声が聞こえて来る。
俺はその声に振り向くと、女が俺の顔を睨んでいた。
何睨んでんだよ。ウザったらしい。
そういう目は嫌いだ、昔の傲慢なあいつらを思い出す。
刺激してくるんだよ、俺の記憶を蘇らそうとしやがるんだ。
あぁ、苛立つ、コイツを見ていると、どうしようも無い程に怒りが沸き上がる。
「貴方」
「きちんとゴミ箱に入れなさい」
「其処にあるのだから」
は?なんだよその命令は。
……確かにペットボトルは入らずに転がってる、だからどうした?
まさか、キチンとゴミに入れろと言うが為だけに俺を呼び止めたのか。
たかがそれだけの為だけに俺の顔を睨んでやがるのか?
「聞いているのかしら?」
「捨てろ、と言っているの」
選択肢
〈素直に従う〉
〈抵抗する〉
↓
https://kakuyomu.jp/works/1177354054921548160/episodes/1177354054921567673
〈素直に従う〉でフラグ折る。
〈抵抗する〉で贄波ルートを続けさせる。
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