テストの結果発表

 ジリジリと音がしそうな夏の日差しが大地を照らしている。

 さて。

 試験が終わって数日の時が過ぎた。

 いよいよ今日は先日受けた試験の結果発表の日ということらしい。

 これは後になってから知った話なのだが、アースリア魔術学園では、本校舎の前の掲示板の前にテストの点数が張り出される形式なのだとか。

 ふう。調子に乗って、全教科満点を目指さなくて良かったな。

 これで5教科500点を取ってしまうと不要な注目を浴びる結果になっていただろう。

 

「うおおおお! 朝から凄い人だかりッスね!」


 テッドの言う通り、掲示板の前はものすごい行列が作られていた。

 生徒たちは早くも自分の順位と点数が気になって仕方がないという様子である。

 よくもまあ、こんな蒸し暑い日に人だかりを作れるものだな。

 早起きして試験の結果を見ることよりも、日頃の学習に時間を割いて欲しいところである。


「ところでテッド。お前、試験の方は大丈夫だったのか?」

「ええ。今回は師匠のおかげで自分でも満足のいく手応えを得たッス! 全教科35点は堅いッスよ!」


 果たしてそれは『満足のいく手応え』と呼んで良いものなのだろうか。

赤点の基準が30点なので、夏休みの補習確定ラインまで5点しか余裕がない。


「くぅ~。ようやく努力が報われる瞬間が訪れるんスね。今年の夏は遊ぶッスよー!」

「…………」


 ただまあ、僅かに5点とは言っても、赤点ラインさえ上回っていれば問題ない(?)のである。

今回に限っては、よくあの絶望的な状況から持ち直したと褒めてやるべきなのかもしれないな。


「やあやあ。アベルくん。昨日はよく眠れたかい?」


 テッドと2人で喋っていると、知らない男に声をかけられる。

 はて。

 この男、以前に何処かで見たような気がするが、いまひとつ思い出すことができないな。


「ああ。おかげさまで熟睡できているが、それがどうかしたのか?」

「ククク。相変わらず口の減らない平民だね。キミは」


 そうか。思い出した。

 コイツは以前、学生食堂で喧嘩を売ってきた上級貴族だったな。

 名前はたしか、サイバネとか言ったか。


『貴様、覚えておけよ! 期末試験で絶対に恥をかかせてやるからな!』


 そういえば以前に喧嘩を売られた時、期末試験がどうのとか言っていたような気がするな。

 この貴族様にとっては、今日が雪辱を晴らすチャンスとして映っていたのだろう。


「知っているかい。アベル君。毎年、この時期の成績優秀者は内部生で埋め尽くされているんだよ。例外はない。ボクの調べた限り、過去10年の間にトップ5に名を連ねた外部生は存在しないのさ」


 何時になく得意気な表情でサイバネは語る。 

 そうだったのか。

 言われてみれば納得である。

今回のような事前に試験範囲が指定されている試験に関しては、学習のノウハウを蓄積している内部生たちが有利なのかもしれないな。

 今回は俺が上位争いから辞退したこともあり、上位陣が内部生で埋めつくされる可能性もあるのだろう。


「つまりは、お前たちの出る幕はないっていうことだよ!」

「「「ギャハハハハッ!」」」


 何がそんなに楽しいのか、取り巻きの内部生たちは品のない笑い声を上げていた。

 それにしても、このサイバネとかいう貴族、わざわざ俺を煽るために過去10年も遡って成績を調べていたのか。

 俺としては、そちらの方が笑い話にするべきところだと思うのだが。


「静粛に! それではこれより成績優秀者の発表を行う!」


 凛とした声が聞こえたかと思うと、掲示板の前に見覚えのある銀髪の教師、フェディーアが現れる。

 さてさて。

 肝心の試験結果の方はというと下記のような感じであった。


 1位 俺 500370点

 2位 ノエル 464点

 3位 エリザ 458点

 4位 ユカリ 456点

 5位 サイバネ 438点

 

 なんだか知らないが、上位陣はよく知っている名前がズラリと並んでいるようだな。


「わ! 見てください! エリちゃん! 3位ですよ! 3位!」

「2点差で4位……。ユカリも凄いじゃない……!」


 4位に名前が上がっている少女、ユカリは以前にハウントの授業で同じチームになったことがあったな。

 ふうむ。

 なかなか見込みがある女だとは思っていたのだが、エリザと僅差で4位につけるとは、相当に優秀なのだな。

 涼し気な顔をして過去10年の間に崩せなかったトップ5位の牙城を崩すとは、たいしたものである。


「クソッ! 一体なんなんだよ! 今年の外部生たちは!?」


 この結果を受けて不満の声を漏らしていたのは、上級貴族のサイバネである。

 無理もない。

 例年であれば内部生が独占していてはずのランキング上位のうち、5人の中の3人が外部生で埋め尽くされているのだ。

 俺たち外部生たちに力を誇示しようと考えていたサイバネにとっては、大きな誤算だったのだろう。


「こんな結果、イカサマに決まっている! 大体、何なんだよ! この500370というバカにした数字は!」


 それに関しては、俺も不思議に思っていたところだった。

 俺としては全教科80点狙いの合計400点を目指していたのだが、どうしてこんなことになってしまったのだろう。

 そもそも500点満点の試験において50万点というのは、流石に常識の範疇を超えている気がする。


「先生! こんな不正を野放しにして良いんですか!?」

「試験の結果は厳正に決定されている。不正など何処にも存在していない」


 ピシャリと突き放すような口調でフェディーアは告げる。


「で、ですが、この劣等眼は……!」

「試験の結果と眼の色は関係ない。これ以上、御託を唱えるようであれば、しかるべき罰を受けてもらうことになるぞ」

「ううう……」


 フェディーアの迫力に圧倒されたサイバネは、完全に委縮しているようであった。

 やれやれ。

 内部生たちの鼻を明かしてやったのは良かったのだが、当初の目標であった『余計な注目を避ける』という点に関してはアテが外れてしまったな。

 どうして俺の点数が桁外れのものになってしまったのか?

 その理由は、返却されたテストに付随していた手紙の中に記されていた。


 アベル君。

 今回の勝負はボクの負け。完敗だよ。

 まさかボクが一カ月かけて構築した『サジタリウスの迷宮論理』をものの1時間足らずで解いてしまうとはね。

 キミの頭脳を讃えるには、100という数字は小さすぎる。

 だからボクの教師権限を使って、特別に50万点をプレゼントしておく!

 次の勝負も楽しみにしているよ。

                       エマーソンより

  

 なるほど。

 この出鱈目な点数表示は、エマーソンの仕業だったのか。

 せっかく人が悪目立ちを避けるために調整していたというのに。

 まったくもって、迷惑な男である。


「うおっしゃああああ! 夢の100番台に滑り込んだッスよおおお!」


 ああ。そうそう。

 ちなみにテッドの順位はというと、全体238人中の193位だったということらしい。

 果たして喜んで良い順位なのかは微妙であるが、落第ラインである下位10パーセントを回避しているだけ、褒めてやるべきなのかもしれないな。

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